がんのサポーティブケア
医療・健康・介護のコラム
患者と社会の懸け橋になるアピアランスケア 脱毛や治療痕 「見た目」から生じる悩みの解決を手助け
野澤桂子・目白大学教授に聞く
がん患者の闘病を支える支持医療について専門家に聞く「がんのサポーティブケア」。第9回は「アピアランスケア」がテーマです。がん治療に伴う「見た目」の変化は、患者の生活の質に大きく関係しますが、ケアのあり方をめぐっては誤解も多いといいます。国立がん研究センター中央病院でがん患者のサポートに長年携わってきた、臨床心理士で目白大学看護学科教授の野澤桂子さんに聞きました。(聞き手・田村良彦)
ウィッグ選びや化粧法と誤解されがちだが……
――アピアランスケアとはどういうものですか。
アピアランスは外見という意味で、がんや治療に伴って生じる脱毛などの「外見」のケアのことです。
――どんなことを行うのですか。
脱毛に対するウィッグだとか、治療の痕を隠す化粧などをイメージされる方が多いのではないかと思います。もちろん、そういった症状に対処することは大切です。
ただし、そういったことだけに注目してしまうと、いかに似合うウィッグを探すとか、上手な化粧のやり方を覚えるかということに陥ってしまいがちです。
実は、患者さんにとって外見の問題はとても苦痛度が高いのですが、苦痛の大きさと症状の程度は必ずしも比例しません。
症状がひどく出ていても、全く気にしない人もいますし、反対に外から分からない程度でも、とても気にして家にこもる人がいます。私たちは患者さんからの相談を通じて、「悩みの本質は症状そのものではないのでは?」と考えて、研究を始めました。
社会との関係があるからこそ生じる痛み
――似合うウィッグが見つかれば済む問題ではないと。
仮に、無人島にいるとすれば、田村さんは自分の見た目が気になりますか?
――だれも見ている人がいなければ、別にひげを伸ばし放題でも、平気だと思います。
はい、多くの人はそうだと思いますし、がん患者さんをめぐる状況も、実は同じです。つまり、健康なときにそうであるように、患者さんは、「無人島に自分しかいなかったら脱毛もキズもこんなに気にならない」とおっしゃいます。外見による患者さんの苦痛は、社会との関係性のなかで生じるわけです。
――社会とのつながりがあるからこそ、悩みが生じるのですね。
これまで医療が扱ってきた「一人でいても痛い」「どこにいても痛い」痛みと、外見の苦痛は全く違います。医療者は、この点を意識しながら支援して、患者さんが外見の苦痛が原因で外に出られないとか、そのために適切な治療を受けられないといった事態を、何としても避ける必要があります。
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