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武井明「思春期外来の窓から」

 揺れ動く思春期の子どもたち。そのこころの中には、どんな葛藤や悩みが渦巻いているのか――。大人たちの誰もが経験した「10代」なのに、彼らの声を受け止め、抱えている問題を理解するのは簡単ではありません。今を懸命に生きている子どもたちに寄り添い続ける精神科医・武井明さんが、世代の段差に橋をかけます。

妊娠・育児・性の悩み

「体重が減るのが今の私の支え」…有名進学校の女子高校生が体重31キロ、生理も止まるまでやせたわけ

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 食事を取れなくなり、体重が減少し、生理も止まる神経性やせ症(拒食症)は、思春期の女子に発症することの多い病気です。重症の場合、精神的なケアとともに、体の治療も必要となります。今回は神経性やせ症の事例を紹介します。

手がかからず成績もトップクラス

「体重が減るのが今の私の支え」…有名進学校の女子高校生が体重31キロ、生理も止まるまでやせたわけ

 綾乃さん(仮名)は、神経性やせ症のために思春期外来を受診した女子高校生です。

 綾乃さんの家族は、両親、綾乃さん、中学生の妹の4人です。綾乃さんは小さい頃から、手がかからず、幼稚園では先生の言うことをよく守り、年下の園児のめんどうをみる子でした。自宅でも妹の世話をよくしていたようです。

 小学校入学後は、周りから優等生として評価され、学級委員や児童会役員を何度も務めました。中学校入学後からは一生懸命に勉強するようになり、学年で常にトップクラスの成績を取っていました。

 高校は進学校として有名な学校に入学しました。席の近かった同級生の女子生徒と仲良くなり、休み時間はいつも2人で過ごしていました。しかし、夏休み明けにその子が転校してしまいました。その後から綾乃さんは食事を取らなくなり、食後には自己誘発性 嘔吐(おうと) (のどに自分の指を入れて吐く行為)をするようになりました。体重が少しずつ減少し、生理も止まったため、思春期外来を母親と一緒に受診しました。

 初診時の綾乃さんは顔色が悪く、やせが目立ちました。身長は160センチ、体重は31キロで、標準体重の57%しかありません。そのため綾乃さんは、すぐに入院することになりました。

退院してすぐ、再び自己誘発性嘔吐を

 入院後も食事が取れないため、高カロリー輸液の点滴が開始されました。

 入院直後の綾乃さんは、

 「私には悩みごとは何もありません。こんなに元気なのに、どうして精神科に入院しなくてはいけないの?」

 と、不満を何度も主治医にぶつけてきました。

 主治医は、

 「あなたの問題は、食べるとか食べないとかいうことではありません。今まで懸命にがんばってきたけれど、これ以上がんばれないというSOSのサインを、体が、やせることであなたに伝えようとしているんです。今は心身の休養が必要です」

 と繰り返して説明しましたが、それに対する綾乃さんの反応はありません。

 入院後、体重が少しずつ増え、食事も取れるようになりました。体重が45キロになった時点で退院しました。しかし、退院するとすぐに自己誘発性嘔吐が始まって、また食事が取れなくなり、体重も減っていきました。そのため、その後3回、入院を繰り返しています。

「やせていることが私のこころの支え」

 3回目に入院したとき、綾乃さんは、はじめて自分の内面について語るようになりました。

 「私は、中学校までは勉強ができることが自慢でした。でも、高校に入ると、周りがみんな優秀な人ばかりでした。テストの点数も、中学校時代ほどよくはありません。すごくあせりました。自分はダメな人間だと考えるようになりました」

 「さらにショックだったのは、高校に入学してからずっと仲が良かった子が転校したことです。私は休み時間、いつもその子と2人で過ごしていました。その子がいなくなってから、私はクラスでひとりっきりになってしまいました。だって、すでに仲良しのグループができていたので、私を入れてくれるグループはありませんでした」

 と言って泣き出しました。

 綾乃さんは、さらに続けました。

 「そんな私を支えてくれたのは、体重でした。私ががんばれば、がんばった分だけ結果が得られます。それで、ダイエットがエスカレートしたんです。体重が減ること、やせていることが私のこころの支えなんです」

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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