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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

平時からのゆとりある強い医療体制を…連載の結びに代えて

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平時からのゆとりある強い医療体制を…連載の結びに代えて

 ある放送メディアから、「視覚障害者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染し入院することになったら、どういう問題が起き、何に注意したらいいか」という質問を受けました。これだけ感染がまん延してくれば、いつ起きてもおかしくない事態であり、それを想定して番組を作る予定とのことでした。

 私は眼科病院の一眼科医です。患者の中に視覚障害者も含まれるし、私が視覚障害認定のための診断書を書いた患者も通院しています。しかし、当院に感染者が直接、入院するということはあり得ません。だから、このような質問は想定外で、「回答者として自分はふさわしくない」とお返事しました。そうしたら、「どこに聞けばいいと思うか」と、先方も少々困っているらしいのです。

 日本眼科医会では、視覚障害者が新型コロナウイルス感染症で入院した場合の医療従事者や医療スタッフ向けのガイドを示しています。しかし、そういう態勢がどの病院でも担保されているとは思われず、当事者がいざ入院となった場合、どうすればよいのかについての指針は、厚生労働省や日本眼科医会のホームページを見ても出てきません。はたと困ってしまい、「視覚障害者の当事者団体に尋ねてみては」と無責任な返事しかできませんでした。

 考えるまでもなく、感染症は視覚障害者に限らず、聴覚、肢体、精神、認知、発達障害の方々、基礎疾患のある方にも区別なく襲ってきます。

 もちろん、健常者であっても乳幼児、後期高齢者、妊婦の感染では、もう一つ、配慮が必要な要素が重なります。

 先月、千葉県柏市で、新型コロナウイルスに感染した妊婦が、入院先が見つからずに自宅で早産し、新生児が死亡したという事例がありました。

 このように、日常生活を行うのにケアが必要な、もう一つの問題を抱える方が新型コロナウイルスに感染すれば、受け入れ先にはより多くの人手が必要になるでしょう。日本社会はそういう過重を想定して構築されてきたのでしょうか。

 感染の広がりで、地域によって現実に医療崩壊を招いていることは、新型コロナの対応医師、医療スタッフの不足、ワクチン接種時の人材不足を伝える日々の報道を見聞きしても歴然としています。

 対策はいろいろ言われますが、あまり気づかれていないのが、「日本は平時の医療体制を維持するのもぎりぎりで、余裕がない状態にあること」ではないでしょうか。

 私は10年余り前に拙著『三流になった日本の医療』(PHP研究所)で、「日本の医学は一流でも、体制が三流」と述べました。そこでは、たらい回しに代表される医師、スタッフの慢性的不足や、若手医師の自殺率の多さ、看護師の燃え尽き症候群を指摘しました。また、同じ規模の病院を日米で比べると、医師は10分の1以下、看護師は7分の1しか人材が配置されていない実態も例示しました。

 日本は自然災害の多い国でもあり、さらに感染症はいつ何時出現するかわからず、まん延すれば影響は何年も続きます。

 医療の領域に限りませんが、今こそ 姑息(こそく) な間に合わせで終わらせず、「能率」ではなく「人力人材重視」の、平時からの強い体制作りに知恵を結集して取り組まないと、日本と日本人の幸福が大きく損なわれる時期が必ず来ると懸念するのは老婆心なのでしょうか。

 コラムを終えるにあたって、この私の叫びを結びとしたいと思います。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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