文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

森本昌宏「痛みの医学事典」

医療・健康・介護のコラム

200メ-トル歩くと脚がしびれる49歳営業マン 神経根ブロック注射で「痛っ!」…でも1時間後には

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 Fさん(49歳・男性、営業職)は「左の脚が痛くって、200メ-トルくらい歩いたら脚がしびれてしもて、そこで5分間は休まへんと続けて歩かれへん。腰を曲げるとしびれはましになるんですけど……」として、私の外来を受診された。「前にかかっとった医院では、脊柱管 狭窄(きょうさく) 症と言われてリハビリを受けてたんですけど」とのことであった。

第4腰椎と第5腰椎の間にヘルニアが

200メ-トル歩くと脚がしびれる49歳営業マン 神経根ブロック注射で「痛っ!」…でも1時間後には

 診察室で、あおむけに寝てもらって、左脚を持ち上げる下肢挙上テストを行ったところ、40度の角度で痛みを訴えられた。なるほど、200メートルで休憩が必要で下肢挙上テストが陽性、腰の前屈でしびれが軽快……ふむふむ、これらは「腰部脊柱管狭窄症」を十分に疑わせる所見である。なお、脚のしびれの中心はふくらはぎの外側~足の甲~足の親指~薬指であった。

 そこで腰のMRI(磁気共鳴画像)を撮ってみたところ、腰にある背骨のひとつである第4腰椎と第5腰椎の間にヘルニアがみつかった。これらの点より、Fさんの病名は「腰椎椎間板ヘルニア」(腰部脊柱管狭窄症の原因のひとつ)による「 根性坐骨(こんせいざこつ) 神経痛」ということになった。ちなみにここでの“根性”とは、神経根の障害を意味する。

 Fさんは「外回りが多いよって、歩かんと仕事にならへん。はよ仕事に戻りたいんですわ」と訴えられた。ここで威力を発揮する治療法が、今回のテーマである「神経根ブロック」なのだ。

知覚神経によって伝えられる情報をストップ

 神経根とは、脊柱管(首から骨盤まで、背骨の中央にある脊髄の容器と考えていただくとよい)の中に出入りする 末梢(まっしょう) 神経の根元のことである。神経根には知覚神経(腰であれば腰から脚の感覚を伝えている)、運動神経(動かす役割を担っている)の線維が走っている。ブロックとは 遮断(しゃだん) を意味し、主として知覚神経によって伝えられている情報をストップして、痛みを軽くする治療法を指す。神経根の出入り口(椎間孔と呼ぶ)は首から骨盤まで左右一対ずつ並び、どの部位でも施行可能である。腰部神経根ブロックは腰から脚の痛みが適応となり、 頸部(けいぶ) 神経根ブロックは首から腕の痛みに対して行う。

 神経を包んでいる膜が薄いため、神経根は圧迫に弱く、炎症を起こしやすい。つまり、腰部では、椎間板ヘルニア、変形性腰椎症(圧迫骨折を含む)、腰椎分離すべり症などによる圧迫によって、いわゆる坐骨神経痛を発症してしまうのだ。頸部では、同じく椎間板ヘルニア、頸椎症による後頸部~肩~腕の痛みを引き起こす。

 神経根ブロック注射では、レントゲンで見ながら、椎間孔に針先を進めて造影剤を注入し、造影剤が神経根に沿って流れることを確認する。少量の局所麻酔薬を注入して様子を見る。問題がなければ、局所麻酔薬(運動神経に影響を及ぼさない薄い濃度)と副腎皮質ステロイド薬(炎症をしずめて、むくみを取る)を混ぜた薬液を追加。ここまでの処置は数分間で終了する。

 この治療法は、診断のためにも有意義である。たとえば椎間板ヘルニアが多発している場合に、どの部位のヘルニアが一番の原因(“責任神経根”と呼ぶ)であるか同定する。手術が必要となる場合には、術前に行っておくべき診断法である。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

morimoto-masahiro

森本 昌宏(もりもと・まさひろ)

 大阪なんばクリニック本部長・痛みの治療センター長。
 1989年、大阪医科大学大学院修了。医学博士。同大学講師などを経て、2010年、近畿大学医学部麻酔科教授。19年4月から現職。日本ペインクリニック学会専門医、名誉会員。日本東洋医学会指導医。著書に『ペインクリニックと東洋医学』『痛いところに手が届く本』ほか多数。現在、大阪市北区の祐斎堂森本クリニックでも診療中。

森本昌宏「痛みの医学事典」の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事