わたしのビタミン
医療・健康・介護のコラム
27歳でくも膜下出血 復帰しミナミで「夜開く」精神科医に…若者に語る「生きている幸せ」
診療所「アウルクリニック」を開く…片上徹也さん(37)
若者が集まる大阪・ミナミの「アメリカ村」で、精神科の診療所「アウルクリニック」を開いています。診療時間は仕事や学校を休まなくてもいいように、午後7時から午後11時まで。「アウル」は夜に活動するフクロウを意味します。
この場所を選んだのは、若い人たちが気軽に来られると思ったからです。うつ病や不眠に悩み、生きづらさを抱える若い人と、じっくり向き合う日々を過ごしています。
両親が医師の家で育ちました。そして高校生の頃には、精神科の医師になって、夜に診療所を開くと決めていました。大学を卒業して研修医として働きながら、診療所を開く準備を進めていました。
くも膜下出血で倒れたのは、そんなときでした。27歳のとき、研修医の友人との飲み会で倒れました。友人が気道を確保してくれなければ、取り返しのつかないことになっていたかもしれません。
目が覚めると、声も出せず、体の左側がピクリとも動きませんでした。自分の状態を受け入れがたく、仕事ができるのかどうか不安でたまりませんでした。約8か月間入院し、リハビリを続けました。
そして、倒れてから約1年半がたった頃、病院の当直のバイトとして復帰することができました。再び開業の準備を進め、約9か月後の2014年7月、クリニックをオープン。日中は病院に勤務しながら、夜の診療を続けています。
「昼も夜も仕事をして大変ではないか」と言われますが、夜の診療は、自分にとっては趣味のようなもの。日中の仕事で生活費のことは考えなくていいので、夜の診療では、時間をかけて、話をじっくり聞くことができるのです。
クリニックに来るのは若い人が中心で、30歳代が多いです。大学生や会社勤め、夜の街で働く人もいます。まじめな人が多く、人間関係に悩み、自傷行為を繰り返してしまう人もいます。
それぞれ、抱えている悩みは違うので、相手の話をしっかり受け止めて、「どのようにしていきましょうか」と一緒に考えていきます。今でも後遺症で左半身にまひが残っているのですが、「生きているだけで幸せ」と自分の体験を話すこともあります。
夜の診療所を開いてみて、こういう場所が必要とされていることを実感しています。仲間を増やして、全国各地に夜間の精神科診療所を増やしていきたいですね。(聞き手・本田克樹)
かたかみ・てつや 1984年、神戸市生まれ。精神科医。奈良県立医科大学卒業後、複数の病院勤務を経て、2014年にアウルクリニックをオープン。大阪府八尾市の八尾徳洲会総合病院に勤務しながら、夜の診療を続ける。著書に「夜しか開かない精神科診療所」(河出書房新社)など。
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。