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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

がんの術後経過観察中に腫瘍マーカーの数値が上がって心配です。

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がんの術後経過観察中に腫瘍マーカーの数値が上がって心配です。

イラスト:さかいゆは

血液検査や画像検査を行う目的は

 早期がんに対する手術や手術前後の薬物療法を終えて、あるいは、術後薬物療法を受けながら、経過観察のために定期的に病院に通っている方は多くおられます。大きな治療を終えているので、「がん患者」ではなく、「がんサバイバー」と呼ぶことも多くなりました。

 術後経過観察で何を観察するのかというと、体調をお聞きしたり、手術後の傷の具合を診たり、局所再発の有無を確認したりします。局所再発というのは、がんがあった部位かその付近に再びがんが見つかることで、たとえば乳がんの場合、局所再発の有無を確認するために、乳房・胸壁や脇の下の触診、マンモグラフィー検査などを行います。

 さらに、経過観察のために、血液検査や、CTなどの画像検査が行われることもあります。血液検査では、一般的な項目のほかに、CEA、CA15-3、CA19-9などの、腫瘍マーカーと呼ばれる項目が測定されることがあります。腫瘍マーカーは、体の中のがんの存在やその勢いを表すもので、経過観察中に腫瘍マーカーの数値が上がってきた場合は、がんの再発が疑われます。

 腫瘍マーカーや胸部・腹部のCT検査で見つけようとしているのは、局所再発というよりは、遠隔転移です。局所再発の場合は、再び根治を目指す治療を行うことが多いのですが、離れた場所までがんが広がった遠隔転移の場合、根治は困難です( 遠隔転移があると、がんは治らないのですか? )。前立腺がんのPSAや、卵巣がんのCA125など、早期がんや局所再発でも数値が上昇する腫瘍マーカーもありますが、ほとんどの腫瘍マーカーでは、局所再発で異常値となるのはまれです。がんの再発によって腫瘍マーカーが高くなっているとすれば、それなりに遠隔転移が広がっていることを意味します。ただ、腫瘍マーカーというのは、それほど正確なものではなく、がんとは関係なく上昇すること(「偽陽性」)もよくあります。

経過観察で腫瘍マーカーは測らなくてもよい

 経過観察の採血検査で腫瘍マーカーが高かった場合、どのように考えるのがよいのでしょうか。遠隔転移が生じている可能性が考えられますので、CT検査やPET検査などで、全身を調べることになります。ここで遠隔転移が見つかれば、「症状のない遠隔転移を早く見つけた」ということになります。もし、遠隔転移が見つからなかった場合は、偽陽性であった可能性が考えられます。

 遠隔転移が見つかった場合、根治は難しいので、「がんとうまく長くつきあう」ことを目標として、主に抗がん剤などの薬物療法を行うことになります。早く見つけて早く薬物療法を開始するのがよいかというと、実は、そうとは限りません。過去に行われた乳がんなどの臨床試験では、検査を繰り返し行うグループと、症状がない限り特に検査を行わないグループとを比較して、どちらのグループも命の長さに違いはなかったと報告されています。早く見つけて早く治療したからといって、症状が出てから検査や治療を行う場合と比べて、その後の経過がよくなるわけではなく、「症状のない遠隔転移」を早期発見・早期治療する意義は乏しい、というのが結論です。そうであれば、遠隔転移の早期発見のために腫瘍マーカーを測る必要もないということになります。

 腫瘍マーカーは、ある程度遠隔転移が広がってから上がるものです。腫瘍マーカーが正常であったとしても、遠隔転移がないということではなく、それだけで安心できるわけでもありません。

 一方で、異常はないのに腫瘍マーカーが高くなる「偽陽性」の場合には、大きな不利益があります。腫瘍マーカーが異常だと言われて不安になり、CT検査やPET検査などを受けることになり、その結果を待つ間も不安で、「検査で異常は見つからなかったので安心してください」と言われた後も、不安は払拭されず、悶々と過ごされる方もおられます。

 そんな患者さんをたくさん診てきた立場からすると、私は、経過観察で腫瘍マーカーは測らない方がよいと思っています。経過観察で受診するたびに血液検査を受けて、その結果をドキドキしながら聞くという方も多いと思いますが、検査の意義について、担当医と話し合ってみてもよいのではないかと思います。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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