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困難によりそう<上>時短や休業で広がる貧困 危機の母子家庭に支援の手

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 新型コロナウイルス禍の長期化で、女性たちが困窮の瀬戸際に立たされている。時短営業や休業が求められてきた飲食店や販売などの仕事は、女性の割合が高いためで、時間的な制約もあるシングルマザーの状況は特に厳しい。女性たちを支援する取り組みを取材した。

深夜の託児所 先輩ママがオープン

安心して働いて

困難によりそう<上>広がる貧困 母子家庭の危機に

 7月中旬、福井市の歓楽街・片町にある託児所。小学4年の女児(10)が、迎えに来た母親(35)の腰に抱きついた。飲食店で接客の仕事を終えたばかりの母親が「眠いよね。早く帰ろう」とほほえんで、小さな肩を包み込んだ。時刻は、午前1時半――。

 この託児所は6月にオープンした。それぞれの母親が迎えに来始めるのは午前0時を回った頃。布団も用意されていて、保育スタッフに見守られて寝息を立てる子どもの姿もある。

 託児所を運営する一般社団法人「シングルマザーの幸せな生活研究所」の代表理事、 柿木かきのき 有紀さん(52)は「夜の街で働いて子どもを養っているシングルマザーに、安心して働いてもらいたい。子どもにとっても、母親を安心して待てる場所にしたい」と話す。

 柿木さん自身、40歳の時に子ども3人を抱えて離婚し、1人で子育てしながら生計を立ててきた。昼はネイルサロンで、夜は子どもたちが寝静まってからバーで働き、時には、化粧品の販売やホテルのベッドメイクの仕事を掛け持ちした。「安定した正規の職に就くのは難しく、短時間の仕事を複数こなす人が珍しくない」のが実感だ。

 末の娘が中学生になり子育てが一段落した5年前、同じ境遇の女性を支えたいと、経営するバーでシングルマザーを雇い始めた。深夜に子どもを預かってくれる場所の確保が大変だと知り、託児所の運営にも乗り出すことにした。

 2歳の息子を預ける女性(25)は、以前は飲食店で昼間に働いていたが、息子の発熱で1週間休み、居づらくなった。「保育園に空きはなく、短時間で収入を得られる夜の仕事を続けている。近くに預けられるので心強い」と笑顔を見せた。

資格取得支援も

 コロナ禍で、福井県でも、飲食店に休業や時短営業が要請されるなどした。夜の街や、非正規雇用で働くシングルマザーたちに収入減や失業などの影響が広がっている。

 「勤め先の休業や経営悪化による雇い止めで、貧困がすぐそばにある女性も多い」と話す柿木さんは、昨年春、提携する企業の協力を得て、就労相談や資格取得などによるキャリアアップ支援を始めた。特産の「越前和紙」の加工業者と組み、アートフラワーやコサージュを作る内職もあっせんしている。

 寄付で集まった子供服やおもちゃ、食料品、日用雑貨などを、必要な家庭に配る取り組みも始めた。運営スタッフとしてシングルマザーも活躍している。

 夫と死別し、小学生の息子と暮らすパート事務員の山口尋子さん(35)も昨年、支援を受けた。マスクや米、菓子などを受け取ったといい、「『いつでも遠慮しないで』と手紙が添えられていて、うれしかった。職探しがうまくいかず焦った時期もあったが、強く生きていきたい」と明るく語った。

生理用品買えず 無料配布の動き…高校や大学

困難によりそう<上>広がる貧困 母子家庭の危機に

女子トイレの個室に配置されている無料の生理用品(岐阜県立不破高校で)

 女性の困窮は、シングルマザーだけの問題ではない。「生理の貧困」と呼ばれる状況も幅広い年代に広がっている。

 「ステイホームで電気代が増え、コロナ禍でバイト代はゼロ。昼用、夜用の使い分けなど費用がかさむので、ありがたい」。今年5月、生理用品の無料配布を始めた筑紫女学園大(福岡県)の学生(20)は話す。

 保健室や学生課のほか、地元の薬局の一部でも学生証を見せることで生理用品を受け取れる仕組みだ。

 生理に関する啓発活動に取り組む若者らのグループ「#みんなの生理」が今年2~5月、高校生、大学生らに生理用品の金銭的な負担についてアンケート調査を行ったところ、「交換する頻度を減らした」は37%、「他のものを買うのを我慢するなど入手に苦労したことがある」も20%に上った。

 生理用品代は、1か月あたり500~1000円程度。その使用をためらうほど、「生活が苦しい」という意識が広がっている。

 同大の大西良准教授(社会福祉学)は「食費を削ったり、日用品を買えなかったりして健康や生活、学業に影響が出ないように支えていく必要がある」と話す。

 同じく今年5月、女子トイレ計30室にナプキンやタンポンを入れた箱を設置した岐阜県立不破高校。産婦人科医らにオンライン相談できる仕組みも導入した。

 大橋雅之校長は「親の負担を心配してしまう子もいる。学校に行けば生理用品があり、相談できる人がいるというセーフティーネットでありたい」と話す。

 寄付を集めて生理用品を購入し、教育機関に提供する英国発祥の活動に取り組む民間団体「レッドボックスジャパン」に支援を依頼し、スタートした。

 同団体の尾熊栞奈代表は「ひとりで悩みを抱え込んで健康問題に発展することや孤立を防ぐためにも、困った時に助けてくれる仕組みがあることを知っていてほしい」と話している。

「生活苦しい」87%「貯蓄ない」32%…「実質的に失業」92万人・働いても報われず

 前年に働いて稼いだ所得は231万円で、子どもがいる世帯全体の平均値のほぼ3分の1――。2019年の国民生活基礎調査からは、母子家庭の窮状が見て取れる。働く上で時間的な制約を受けやすいこともあり、87%が「生活が苦しい」と感じていて、32%が「貯蓄はない」と回答した。

 新型コロナウイルス禍で時短営業や休業要請の影響が広がっている。非正規雇用で働く人の数は約97万人も減った。その約8割は女性が占める。

 それだけではない。野村総研は7月、勤務日数を大幅に減らされるなど「実質的な失業状態」にあるパートやアルバイトの女性が約92万人に上るとの推計を公表した。失業はしていないものの、収入が大きく減ったり、ほとんどなくなったりする。そんな状況が続けば、約半数が派遣社員やパートで働くシングルマザーたちの生活は、やがて行き詰まってしまう。

 生活困窮の広がりは、国が昨年3月に始めた「特例貸付制度」の申し込みが今年7月上旬時点で全国で250万件を超えたことからも明らかだ。コロナ禍で収入が減少した人に生活資金を無利子で貸し付けるもので、以前からある制度を拡充し、最大200万円まで借りられるようになった。

 実務は市区町村の社会福祉協議会が担っているが、東京都の足立区社協では貸し付けの新規申請が約1万5000件に上った。「平時の約100年分だ。タクシーや観光バスの運転手らとともに、飲食店などで働いていたシングルマザーが仕事を失い、助けを求めている」(担当者)という。

 日本の母子世帯の就業率は約8割を超え、OECD(経済協力開発機構)加盟国で3番目に高い。にもかかわらず、貧困状態にあるひとり親の割合も2番目に高い。「働いても報われない」という構図が浮かび上がる。

 貧困は、個人の努力だけで解決できる問題だろうか。

 「コロナ禍で、幅広い層が経済的な危機にさらされている。貧困の問題を『自分にも無関係ではない』と考えられる人が多くなったのではないか」。生活保護など社会保障制度に詳しい明治大の岡部卓教授は、そう感じている。

 親の困窮が子どもの将来に影響する「貧困の連鎖」や、「格差拡大」に歯止めをかけるためにも、住居や就業、食事、医療など様々な角度から困窮家庭を支援する必要性が高まっている。

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