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ココロブルーに効く話 小山文彦

医療・健康・介護のコラム

【Track17】リストカットと過量服薬に走った20代女性。彼女が表せなかった思いとは?

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 誰にでも、行動でしか表せなかった思いがあるはずです。

 言葉にすれば簡単なことでも、いつもそれができない人もいる――。今回はそんなケースを紹介します。

薬が足りなくなったと夜間救急に来た女性が…

【Track17】リストカットと過量服薬に走った20代女性。彼女が表せなかった思いとは?

 私が医師になって間もない頃、精神科救急の当直を務めたある夜のことでした。「通院中の方が、眠る前の薬がなくなったとのことで来院されます」との連絡があり、初療室に向かいました。

 そこには母親に連れられて、うつむいたままの女性がいました。カオリさん、26歳。私の先輩医師T先生が受け持つ外来患者さんで、カルテには 「境界性人格障害」とありました。

 カラフルな 半纏(はんてん) を羽織った体は、小刻みに震えていました。少年のような短い髪はかきむしったように乱れており、うなだれたまま泣いていました。にもかかわらず、母親は、「先生にちゃんと話しなさいね!」と言い残し、初療室の外へ出て行ってしまいました。

 「サカイカオリさんですね。今日、精神科病棟の当直医をしているコヤマといいます」と自己紹介をすると、彼女は 嗚咽(おえつ) しながらも、「うん」とうなずいているように見えました。

 そこで、「処方されていたお薬が、足りなくなったと聞きましたが?」と言葉をつなぎましたが、カオリさんからは、何も返ってきませんでした。

 夜の初療室は静かです。彼女に圧迫感を与えないように、できるだけ穏やかに面接を進めることにしました。

 もう一度、薬が足りなくなったのかについて確認をしてみました。

 しばらく沈黙が続くと、やがてカオリさんは、大きく首を振って、それを否定しました。私が「ちがうの?」と尋ねると、またしばらく無言が続きます。

 そのまま反応を待っていると、「ちがう……さっき、夕方に、全部、飲んだ……」と、たどたどしい言葉が返ってきました。

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小山 文彦(こやま・ふみひこ)

 東邦大学医療センター産業精神保健職場復帰支援センター長・教授。広島県出身。1991年、徳島大医学部卒。岡山大病院、独立行政法人労働者健康安全機構などを経て、2016年から現職。著書に「ココロブルーと脳ブルー 知っておきたい科学としてのメンタルヘルス」「精神科医の話の聴き方10のセオリー」などがある。19年にはシンガーソング・ライターとしてアルバム「Young At Heart!」を発表した。

 今年5月14日には、新型コロナの時代に伝えたいメッセージを込めた 新曲「リンゴの赤」 をリリースした。

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