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術前尿検査、10件中9件が不要 米・保険請求データ1,300万件超で検討

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 手術の種類を問わず、術前に実施されることが多い尿検査について、米国感染症学会(ISDA)などのガイドラインでは全ての手術患者に対し術前にルーチンで尿検査を実施すべきではないとの推奨が示されている。こうした中、米・Massachusetts General HospitalのErica S.Shenoy氏らは、米国の保険請求データベースを用いた研究で術前の尿検査の実施状況について検討。術前に実施された尿検査の約10件中9件は臨床的に価値が低かった(low value)とする結果をJAMA Intern Med( 2021年8月2日オンライン版 )に発表した。

ガイドラインでは尿路感染症の症状ない患者には推奨せず

術前尿検査、10件中9件が不要 米・保険請求データ1,300万件超で検討

(C)Adobe Stock ※画像はイメージです

 尿検査は術前に実施されることの多い検査の1つだ。しかし、ISDAや米国予防医学専門委員会(USPSTF)、日本感染症学会/日本化学療法学会のガイドラインでは、妊婦や泌尿器科手術を施行する患者を除き、発熱、排尿痛などの尿路感染症の徴候や症状がない患者に対しては、術前にルーチンで尿検査を実施すべきでないとの推奨が示されている。尿検査で治療を必要としない無症候性細菌尿(ASB)が見つかるケースが多く、不要な抗菌薬の使用につながる可能性があるからだ。

 また、ASBが術後合併症につながるのではないかとの考えから術前に尿検査がオーダーされる場合も多いが、無症候の術前患者のほぼ全例でASBのスクリーニングや治療を行うことを支持するエビデンスは得られていないという。

 一方で近年、価値の低い検査や治療の追加、すなわち低価値医療(low value care)が重大な問題となっている。しかし、尿検査は低価値医療の領域において十分に評価されていなかった。そこでShenoy氏らは、術前の尿検査の実施状況について調べるため、2007~17年のIBM Watson MarketScanの営利保険およびメディケアの請求データを用いて外来および入院の手術患者のデータを解析した。

 手術は乳腺手術、心臓手術、大腸手術、人工関節置換術、脳神経手術、ペースメーカー関連の手術など14グループに分類。術前は手術の30日前と定義した。

 急性膀胱炎、その他の尿道の障害、尿道炎、発熱、排尿障害、意識障害、頻尿、尿意切迫感のいずれかの診断がある手術患者に対して術前に実施された尿検査は、臨床的に価値の高い尿検査と判定した。

 これらの診断がない症例に対して実施された尿検査は適応なし(臨床的に価値の低い検査)と見なした。

検査費の負担に加え抗菌薬耐性菌の発生リスクも

 検討の結果、解析対象となった手術1,316万9,656件のうち329万7,323件(25%)で術前30日間に尿検査が実施されていた。〈1〉術前に尿検査が実施された例〈2〉術前に適応のない尿検査が実施された例〈3〉術前に適応のない尿検査が実施され、その後抗菌薬が処方された例-の割合は手術の種類によってばらつきがあったが、手術全体で見ると術前尿検査の89%は適応のない尿検査であった。

 また、術前に実施された適応のない尿検査の費用は1回当たり平均17ドル(約1,860円)で、そのうち平均79.5%が保険から支払われていた。

 術前に適応のない尿検査が実施された患者のうち、その後抗菌薬が処方された割合は、手術の種類によって異なるが5.8~28.0%の範囲だった。抗菌薬の費用は1コース当たり20~65ドル(約2,190~7,110円)だった。

 Shenoy氏らは「今回の研究から術前に尿検査が実施される頻度は高いことが明らかになったが、そのほとんどは適応がない検査とみられた。また、こうした尿検査に関連する抗菌薬の処方はベネフィットがない、あるいは有害である可能性が高いと考えるべきだ」と説明。「不要な尿検査およびそれに伴い処方される抗菌薬、医師や病院検査室への費用は保険者と患者にとって負担になる。さらに不要な尿検査は、抗菌薬の不適正な使用による副作用リスクやClostridioides difficile感染症などといった感染症リスクの上昇、抗菌薬耐性菌の発生といった問題をもたらす可能性もある」と指摘している。(岬りり子)

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