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ベッドに横たわったままでも…在宅勤務で広がる障害者雇用の可能性 機器やソフトで支援

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 新型コロナウイルスの感染拡大で改めて注目されている在宅勤務。通勤が難しい身体障害者にとっては、活躍の場が広がる効果が期待される。ICT(情報通信技術)の導入などを通じて障害者が在宅で働きやすいよう工夫する職場を訪ね、雇用の受け皿拡大のヒントを探った。(栗原守)

障害者雇用 在宅に可能性…特性に応じ支援 体調や進捗を共有

自宅のパソコン等を駆使して、社内のプロジェクトのまとめ役を務める田中さん(東京都西東京市で)

通信ソフトで効率化

 「少なくとも1日10回は、通信ソフトを使い、同時に複数の社員と議論をしたり、指示したりしています」

 沖電気工業の特例子会社「沖ワークウェル」(東京)の社員で、東京都西東京市の田中真一さん(46)は全身まひの障害者。在宅勤務でデータ処理班のリーダーを務めている。

 社員の約7割は在宅の障害者で全国22都道府県に住んでいる。業務はグループ会社のウェブサイト作成・更新などが中心だ。

 在宅勤務を円滑に進めるカギとなっているのが支援機器や通信ソフトだ。重度の身体障害者の社員は手の微妙な動きを感知する機器を駆使して、ベッドに横たわったまま、パソコンの入力ができる。

 視覚障害者が通信ソフトを利用する際には「読み上げ機能」が作動するほか、声を出すことが難しい人向けに「音声合成機能」が連携するなど、各障害に対応できるようにした。

 堀口明子社長は「機器やソフトで障害者の特性に合わせた支援をすることで、距離を感じさせない働き方を実現したい」と話す。

情報交換で不安軽減

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自宅に設置したパソコンの通信ソフトを使いながら作業を進める川口さん(東京都板橋区で)

 「プログラミングの技術をさらに上げていきたい」と話すのは東京都板橋区在住の川口みほ子さん(38)。NTT西日本ルセント(大阪市)の社員として、在宅勤務でシステム開発を担当している。

 毎朝9時の始業時にパソコンを起動し、専用のソフトに、朝の体温や体調、服薬などの状況を入力することから業務が始まる。会議や連絡、業務の 進捗しんちょく 状況の把握、相談事もソフトで進めることができる。

 障害者の社員は約320人で、出社を前提としない人もいる。かつては自宅にいる社員の勤務や健康の状況が把握しにくく、作業が円滑に進まないケースもあったが、2019年にこのソフトを開発・導入することで、状況が大きく改善されたという。

 奥田全毅社長は「障害者雇用で情報交換ツールは非常に重要。在宅勤務者にとっても出社勤務者にとっても、不安軽減に大きな効果がある」と話す。

地方の人材の受け皿にも

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 障害者雇用促進法では、一定の規模を持つ企業に対し、障害者を雇うよう義務付けている。国は企業が達成すべき、従業員に占める障害者の割合(法定雇用率)も示している。厚生労働省によると、障害者の雇用義務のある企業で法定雇用率を達成している割合は2020年6月1日現在で48・6%にとどまる。

 国は障害者の雇用を拡大するため、21年3月に民間企業の法定雇用率を2・2%から2・3%に引き上げた。

 人材派遣会社のリクルートスタッフィング(RS)の調査によると、法改正に伴い、36%の企業が障害者雇用を拡大する意向を示しているという。

 そんな中で、注目されているのが、在宅勤務を活用した遠隔地の人材の活用だ。大企業の多い都市部に比べ、地方では障害者の雇用の受け皿が少ないケースが珍しくない。都市部の企業が、地方の障害者を「在宅勤務」として採用することで、「都市部と地方で人材の不均衡が緩和されることが期待される」(調査を担当した飯尾朋子さん)という。

 ただ、実施にあたっては、出社して働く人と在宅で働く人との間で、心理的な距離が生じないようにする配慮も欠かせない。

 購入支援サイトを運営するカカクコム(東京)は07年から障害者の雇用を続けている。現在は、障害者の社員全員(18人)を長野県や沖縄県などから採用し、通勤を前提としない在宅勤務でサイトの管理等を任せている。

 会社との一体感を維持するため、担当者が定期的に訪ねて研修を行ったり、半年に1回の出社日を設けたりしている。担当者は「愛着をもって働いてもらうためには、直接顔を合わせた支援も必要」と話している。

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