本ヨミドク堂
医療・健康・介護のコラム
『自閉症の息子をめぐる大変だけどフツーの日々』 梅崎正直著

ヨミドクター編集長である著者が、自閉症の息子との28年間の泣き笑いの日々をつづった。
2020年1月から1年間、ヨミドクターで連載した人気コラム 「アラサー目前! 自閉症の息子と父の備忘録」 を基に大幅加筆し、小児外科医の松永正訓さんとの対談も収録している。
自閉症の子どもを持つことがどれほど大変なことなのか、当事者でなければ想像することさえ難しい。苦労話を書こうと思えばいくらでも書けるだろうし、自閉症への社会の無理解に対して不満や怒りを感じることも多いことだろう。
しかし、そこは世の中の様々な矛盾を取材してきた新聞記者。息子と自身や家族の状況を冷静に 俯瞰 し、かつユーモアを交えてつづっているので、読む側もしんどさを感じることがない。何より、どのエピソードからも、息子に対する著者や家族のあふれる愛情が感じられ、逆に読後は心がほかほかと温まる。
本書を通して著者が強調したいのも、あれこれ苦労したことより、28年間は「フツーの日々」だったということだろう。たとえ重い障害を持って生まれても、時間の経過の中で子どもの世界は少しずつ広がり、子も親も共に育ってゆく。大変さの程度こそあれ、その点は他の子どもと変わらない。同じような障害を持つ子をこれから育てようとしている家族にとっても、本書は大いに励みになるのではないだろうか。
イラストは、ヨミドクター連載時からイラストレーターの森谷満美子さんが担当。本書の内容にぴったりの優しいタッチで、イメージを膨らませてくれる。(中央公論新社 1760円)
(ヨミドクター副編集長 藤田勝)
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