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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

抗がん剤治療は「手術の補助」で行うのですか?

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乳がんでは「術前化学療法」が主流に

 術後薬物療法の説明をしてきましたが、手術の前に薬物療法を行うこともあり、これを、「術前薬物療法」と呼びます(一部では、「術前補助療法」という言葉も使われています)。

 乳がんでは、再発予防のために抗がん剤治療を行う方がよいと判断される場合には、「手術の後に行うよりも、手術の前に行う方がよい」という考え方もあり、最近は「術前化学療法」が主流となりつつあります。

 乳房やわきの下のしこりを切除した後に薬物療法を行う場合には、薬物療法中に治療効果を確かめることはできませんが、手術の前であれば、しこりが小さくなっていることを確認しながら薬物療法を行えるという利点があります。乳房のしこりが小さくなっているということは、全身を巡っている目に見えないがん細胞にも効果が及んでいると推測でき、とても重要な情報となります。術前薬物療法の効果を厳密に評価した上で、その効果が十分であれば、術後薬物療法を軽くし、不十分であれば、術後薬物療法を強化する、といったことも行われるようになっています。

 術前でも術後でも、薬物療法を適切に行うことが、遠隔転移を防ぐことにつながりますので、一人ひとりの患者さんにとって最適な薬物療法を行うことが重要です。ただ、薬物療法をどんどん行えばよいということではなく、過剰な治療は避け、必要最低限の治療に抑えることも忘れてはなりません。

「補助療法」という言葉は使われなくなっている

 私は、術前・術後の薬物療法の説明をする際には、まず、患者さん本人に、治療目的を理解してもらうようにしています。遠隔転移を防ぐことは、将来の運命を左右するかもしれない重要なことであり、そのためには適切な全身治療(薬物療法)を行う必要があること、ただし薬物療法には強い副作用もあるので、プラスとマイナスのバランスを慎重に考える必要があることなどを説明し、じっくり話し合った上で、治療を選択します。手術の補助として薬物療法を行うということではないため、患者さんに正しく理解してもらうためにも、「補助療法」という言葉は使いません。

  些細(ささい) な言葉遣いの問題ではありますが、副作用と向き合いながら、大事な目的のために薬物療法に取り組んでいる患者さんのことを思うと、その治療が「補助療法」と呼ばれることには違和感があり、私は、その違和感について発言してきました。

 公的文書でも「補助療法」という言葉が使われてきた歴史があるのですが、最近は少しずつ変化も起きていて、少なくとも乳がんに関しては、新しく承認される薬剤の添付文書に「補助療法」という言葉は使われなくなっています。これまで「手術の補助療法」と記載されていた部分が、今は、「術前・術後薬物療法」と書き換えられています。

 この話題をきっかけに、全身治療と局所治療の違いや、治療目標を理解することの大切さを考えてもらえれば、と思います。(高野利実 がん研有明病院乳腺内科部長)

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、かつてのヨミドクターの連載「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~」をまとめた、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある。

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