産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
人間同士の物理的な距離は、心理的な距離と比例……コロナで職場の人間関係が変わる!

イラスト 赤田咲子
新型コロナ禍は1年半の長期にわたり、いま第5波襲来です。ワクチン接種と感染予防で対処していますが、中でも「3密」(密閉・密集・密接)防止が重視されています。しかし、密接防止によって大切なことが機能しなくなりました。親密な会話をすることが難しくなっているのです。
それが新たな職場ストレスを生んでいます。なぜなら仕事には、担当者が顔を突き合わせ、本音を話し、「落としどころ」を探るところがあります。ひそひそとする、“ここだけの話”が難しくなっています。
これまでのやり方が通じない中高年、特に男性社員の戸惑いは大きいです。メンタル系産業医として多くの企業に関与している観点から、新たなストレスについて、私と企画課長(49歳、男性)、営業係長(39歳、男性)、女子社員(26歳)の4者による対話で紹介します。
職場でのちょっとした会話が減った
企画課長: 先生、仕事ってね、コミュニケーションがキモなんです。会議できちんと説明するという場面だけではなく、ちょっとした部下との会話も大切ですよ。潤滑油のようなものです。コロナでそれがやりにくくなりました。どうもそれが、仕事の障害になって、案件がスムーズに進まない感じがしています。
産業医 : 私たちも同僚との何げない会話がきっかけで、ケースの病状把握につながることもあります。同感ですね。図は、人間関係の親密度と距離の関係です。重要なのは「物理的距離は心理的距離に比例する」ことです。例えば「あなたと相手」の距離が1メートルと、3メートルでは親しさが違います。近さが親密性を表しています。エドワード・ホールの学説によれば、親子なら0.5メートル以内で、手が触れ合う距離です。職場関係なら1.2~3.6メートルの距離。
営業係長:距離ですか。営業は訪問が第一歩。会うことから始まって、何回も通い、親密感を持っていただきます。あいさつ、雑談を経て、冗談が言えるようになる。距離で言えば、3.6メートルから2メートルになる感覚です。そこからやっと商談に入ります。訪問ができなければ、何も始まらないですよ。
女子社員:距離が開いていると、おしゃべりが盛り上がりませんね。女性は、おしゃべりでは情報交換だけではなく感情の発散もしていますから、おしゃべりの機会が減るのはつらいですね。
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