がんのサポーティブケア
医療・健康・介護のコラム
がんの支持医療に漢方を 抗がん剤の副作用 全身倦怠感や食欲不振を改善 「活用ガイド」も作成
原発不明がんの患者 体調が改善し生活への意欲も
――がん患者さんへの漢方処方で、印象に残っている例について教えてください。
70歳代の女性の原発不明がんの患者さんで、抗がん剤治療を受けていたのですが、食欲不振があるということで主治医から紹介を受けました。問診をしたところ、他にも体のだるさや、不安感、手足のしびれ、冷えなど様々な症状があり、また血液検査では貧血があり、人参養栄湯(にんじんようえいとう)を処方しました。
そうしたところ、徐々に食欲が出てきて、その他の症状も軽快し、それまでは副作用のせいで中断しがちだった抗がん剤治療を続けられるようになり、その効果が出てやがて腹水が消えました。外来治療を続け、生きる意欲が出て、普通の生活を送りながら、それから5年ほどの命を全うされました。
「活用ガイド」の作成 少ないエビデンスに苦労
――日本がんサポーティブケア学会漢方部会で2020年、「がんサポーティブケアのための漢方活用ガイド」を作成されました。ねらいは何ですか。
日本がんサポーティブケア学会では各部会が2017年から毎年1冊のペースでガイドや手引を出していますが、漢方についても臨床現場で活用できるものをというリクエストがあり、作成するに至りました。
――作成するうえで苦心された点は何ですか。
漢方に関するエビデンスがまだ不足していることです。
六君子湯のようにエビデンスとなる研究が比較的多いものもありますが、たとえば、抗がん剤による爪の障害にどう対応するかとなると、エビデンスとなるランダム化比較試験は1本もありませんでした。
そこで少しでも臨床現場での参考になるようと、皮膚・爪の症状について症例集積研究などを集めながら、漢方的な発想では十全大補湯が「基本処方」となることを示しました。
がん専門医らへのアンケートを基に改定へ
――「漢方活用ガイド」の対象読者はどんな方ですか。
がん治療の専門家で、漢方のことはあまり知らないが臨床に取り入れてみたいという関心のある方を主な対象としています。
――現在の医学教育の中では漢方について学ぶ機会はあるのですか。
医学教育モデル・コア・カリキュラムに漢方医学が取り入れられ、全国の医学部で漢方の授業があります。しかし、医師国家試験には入っていませんし、卒後研修で学ぶ機会も少ないのが現状です。
――「漢方活用ガイド」への反響はいかがですか。
日本がんサポーティブケア学会の各部会員にアンケート調査をしたところ、40人から回答を得ました。回答内容を吟味して、次には学会員全体に広げて実施したいと思います。
さらには、日本癌治療学会や日本臨床腫瘍学会などのより大きな学会に所属する幅広い医療者の声を聞きたいと考えています。
――改定の予定などはありますか。
はい、そうしたアンケートで得られた声を踏まえて、より活用しやすいガイドへと改定を進める計画です。
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