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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

「アクアポリン4抗体陽性視神経炎」の治療の進歩…再発予防を目的とした新薬の開発も

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「アクアポリン4抗体陽性視神経炎」の治療の進歩…再発予防を目的とした新薬の開発も

 前回、多発性硬化症や急性視神経炎と診断されてきたものの一部が、「視神経脊髄炎スペクトラム障害」(NMOSD)に該当し、その中の代表的な病気である「アクアポリン(AQP)4抗体陽性視神経炎」についての最近の考え方などを紹介しました。

 私どもの施設では、過去1年間に16例の視神経炎例を扱いましたが、NMOSDと確定した例は6例で、うちAQP4抗体陽性は半数の3例でした。当院の1年間の外来患者数は約23万人ですので、その点では非常に頻度の少ない病気だといえます。しかし、「アクアポリン4抗体陽性視神経炎」は重症度が高く、再発しやすく、難治であり、常に失明の危機にさらされるとともに、脊髄炎などの症状も出る可能性のある病気です。

 この種の視神経炎の急性期の治療には、副腎ステロイドパルス治療が行われますが、反応が乏しい場合は、血液浄化治療や免疫グロブリン大量療法などが選択されます。そこで、病気の勢いが落ち着いたとしても、次なる大きな問題が再発予防です。視神経炎が再発すれば、当然、より失明に近づくことになるからです。副腎ステロイドが有効な場合は長期にわたり投与されますが、再発防止策として十分とはいえませんでした。

 そこで、免疫系のことを念頭に置いた新しい治療としては、とにかく「アクアポリン4」抗体の生産や活性化を抑えればよいわけです。抗体産生細胞が抗体を作り始めるところを遮断する「サトラリズマブ」、抗体産生細胞そのものを減少させる「イネビリズマブ」、そして、神経細胞にダメージを与える最終経路を抑える「エクリズマブ」――という3種類の分子標的薬が、再発予防を目的の新薬として開発されました。その臨床試験の結果、日本でも「希少疾病用医薬品」として承認されています。

 各薬品はいずれも注射薬で、それぞれ投与法が決まっており、間をおいて繰り返し投与することが必要です。再発が起こりやすい発症後2年間が、とりあえずの投与期間と考えられます。1バイアル(薬液の入った容器)の価格は数十万から数百万円する高額の薬ですが、難病法などによる医療費助成が使えます。

 経済的な問題だけでなく、いずれの薬物にも適用制限や副作用があります。希少疾患ですし、しかも新薬ですから、どの医師も豊富な経験を持っているわけではありません。しかし、たとえば視神経炎の再発が失明につながるリスクが高いことを考えると、「アクアポリン4抗体陽性視神経炎」を発症した患者には、可能なら使用すべきでしょう。 

 いつ、どの時点で、どの薬物を使うかについて、決定的なガイドラインはまだありません。現状は、専門家と当事者が互いに十分理解した上で使用するかどうかを判断すべきだと思います。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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