宮脇敦士「医療ビッグデータから見えてくるもの」
医療・健康・介護のコラム
スマートデバイスで「隠れ」心房細動を把握 技術の進歩で健康格差が広がる懸念も
身近に健康をチェックできる機器として活用
前回に続き、医学や公衆衛生におけるビッグデータの新しい利用の潮流についてお話ししたいと思います。特に、今回は、医療において最近役割が増してきた、スマートデバイスのような情報通信機器におけるビッグデータの役割にフォーカスを合わせてみたいと思います。
私たち医師は、診療の中で、患者さんの状態を表す多くの機器を使用します。その中でも、血中酸素飽和度(SpO2)モニターや血糖の測定器などは比較的簡単に扱えて、表示される数字の解釈も容易であるため、患者さんが自ら使用してきました。このような比較的簡単に扱える医療機器を、「もっと身近に私たちの健康をチェックできる機器として扱っていこう」という流れがあります。
その際に、重要になってくるのがデータの力です。医師がいれば、出てきた結果を解釈することができるのですが、これらの情報通信機器を日常で使用する際には、必ずしも医師が判断できる状態にはないからです。
酸素飽和度のように「~%以上なら正常」など比較的判断しやすいものであればよいのですが(酸素飽和度でさえも実際には、一概に~%以上ならOKというわけではなく、もともとの数字や呼吸数、全身状態などを見て医師は判断するのですが)、例えば、心電図など簡単には評価できないものも多くあります。
腕時計型のスマートデバイスでも
腕時計型の脈波測定機能を持つスマートデバイス(Apple WatchやAliveCor Kardia Bandなど)はその一つの例です。
例えば、Apple Watchは、光電容積脈波法(PPG:photoplethysmography)という技術を使って,脈拍数を調べています。また、Apple Watchの側面に指を当てることで簡単な心電図波形を測定することもできます。
PPGは、体に照らされたLEDライトの散乱をセンサーで検知して、どれくらい光が体の中を透過したかを、経時的に調べる技術です。
この脈拍数のばらつきが、ある一定の値を超えるとApple Watchは不規則なリズムを利用者に知らせます。この「一定の値」は、企業秘密とされていますが、不整脈のある人、ない人の大規模データを収集して、最も適していると思われる値を統計学的な手法で算出していると思われます(1)。
1 Perez et al., NEJM, 2019.
2 Wang et al., JAMA Netw Open, 2021.
3 Miyawaki et al., JMIR, 2021.
1 / 3
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。