文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

教室で理由もなく涙が…不登校の中3女子 無理せずと言う医師に「私はがんばらないと価値がない存在」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

「先生はわかってない」

 そう言われた里奈さんは、

 「先生はわかってない。私はがんばらないと価値がない。休むとダメなんです」

 と訴えて大声で泣きだしました。

 その後、里奈さんは、2週間に1度の割合で、お母さんと一緒に通院することにしました。

 通院を始めてからも、学校を完全に休むことはなく、朝から登校して早退したり、午後から遅刻して登校したりしていました。帰宅した時にはぐったりと疲れ果て、夕食をとるとすぐに眠ってしまいます。

 担任の先生からは、保健室や空き教室で過ごすことを勧められましたが、里奈さんは「勉強が遅れる」と、その提案を受け入れませんでした。

 12月になると、完全に学校を休むようになりました。診察室での里奈さんは、

 「私はもう、がんばって登校することができません。でも、がんばることをやめると、生きている価値がないんです」

 と泣きながら話をしてくれました。

 「私はこれまで生徒会や勉強をがんばってきました。それは自分に自信がないからなんです。何もしない自分は誰からも認められないので、ひたすらがんばってきました。自分ができることは、がんばることなんです。でも、そんな生活にもう疲れました。同級生の子と同じように一緒になってふざけたり、テスト前に遊んだりという生活をしてみたい」

 とも述べました。

 お母さんによると、

 「部活や生徒会に熱心で、成績も優秀で、先生にもほめられてきたので、これでいいと思っていました。でも、本人は、すごくがんばっていたことがよくわかりました。夫が口うるさい人で、子どもたちに『がんばれよ』『怠けるな』と口癖のように言う人でした。里奈はそれをまじめに受け止めていたんでしょうね」

 ということでした。

がんばることに存在意義を見いだす子どもたち

 その後の里奈さんは、学校を休んで、自宅で音楽に没頭するようになりました。診察のたびに、好きなミュージシャンの話をしてくれました。

 たまに保健室登校をしながら中学校を卒業し、通信制高校に入学しました。もともと行動力のある里奈さんは、高校の同級生とバンドを組み、ボーカルを担当して学校祭では大いに活躍しています。

 「登校しなさい」という登校刺激を与えないことが、不登校の子どもに対する対応の鉄則と言われてきました。この言葉によって、「行かなくてはいけないのに行けない」という葛藤から解放され、自宅でゆっくりと休めるようになったことで、どれほど多くの子どもたちが救われてきたことでしょう。

 しかし、里奈さんのように、なかなか学校を休めない子どもたちがいるのも事実です。自分に自信がないために、「登校をがんばる」ということに自分の存在意義を見いだそうとする子どもたちがいるのです。そのような子どもたちから、がんばりを奪ってしまったら、彼らが懸命に守ってきた「存在意義」は失われてしまいます。だから、彼らは学校を休んでいいと言われても、なおも続けて何とか登校しようと試みます。

がんばらない自分にも価値がある

 「がんばらない自分、何もしない自分にも価値があるんだ」ということに、子どもたちが気づいてほしいのです。そのためには、休んでいいんだよという言葉をかけるだけではなく、周りの大人が、がんばれない自分と直面して自信を失っている彼らを支えてあげることが必要なのです。こころを支えられることで、里奈さんのように、「がんばり」から解放され、本当にやりたいことが見つかることもあります。

 がんばりにとらわれている子どもたちは、これまで、何かすることでまわりの大人に評価されてきたのでしょう。子どもたちには、何もしなくても存在しているだけで価値があり、尊いのだということを、大人たちがしっかりと認めてあげることが大切です。目の前の思春期の子どもたちが、何もできない赤ちゃんだった頃を思い出して。(武井明 精神科医)

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

takei-akira_prof

武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

武井明「思春期外来の窓から」の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事