産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
課長の「会社優先」は、若手社員に通用するか?

イラスト 赤田咲子
若手社員は職場になじんでいく過程で、会社の常識を知り、慣れていくと言われています。それは就業規則のように明文化されていないルールや社風、社内文化などでしょう。イベントや飲み会、サークル活動などで自然と若手に伝わっていました。一方、最近では若手社員の中には、そのようなものを受け入れたくないという人が増加しています。
新型コロナ対策に伴うテレワークの中で、こうした社内文化も変わっているのかもしれませんが、メンタル担当産業医が実感するのは、やはりこれまで同様の相談が続いていることです。管理職などからは「上司や先輩が残業していても、若手は平気で帰る」などの訴え、若手からは「課長はそれぞれの家庭の事情を無視している」などです。社内常識に表れるギャップを説明するために営業課長、若手社員の意見交換を軸に紹介します。
明文化されていないが、拘束力がある
産業医 :面談でしばしば「常識」という言葉を聞きます。私生活よりも当然のように仕事を優先する感覚とか、営業の方法での常識などです。就業規則のように明文化されていませんが、この“常識”が職場でのストレスの要因になっています。
若手男性:入社3年目の営業部員です。暗黙のルールはありますね。でも、新型コロナで、先輩や管理職との飲み会やイベントがなくなって、わかりづらくなった感じがしています。
営業課長:それもあって、最近は、若手社員との距離ができた感じがします。
なぜ、会社優先なのか?
若手男性:先輩が「仕事だからしょうがない」と自分の予定の変更を当然のことのように口にすることがあるんです。「えっ、今どき、そんな言い方をするか」と思うことがあります。
営業課長:我々が若いころは、当然のこととしてたたき込まれましたよ。今は若手から、「なぜ、そうなのですか」と質問されて、説明するのが難しかったという話を周りからも聞きますね。
若手女性: 女性社員には、着るものにも暗黙の了解があるので、外れないように気を使っていますよ。
会社は「共同体」から「機能体」へ
産業医 :社内の常識が薄れてきたのは、会社側の意識が変わった点にも原因がありますね。
営業課長:入社したころは、会社は運命共同体だと言う人もいましたね。経済の成長とともに会社も成長し、自分や家族が豊かになっていくという実感を持てた時代もありました。
産業医 :バブル崩壊後に、会社は共同体から、利益を追求する機能体という面が強くなりました。そうなると、社員は仲間といっても実感が伴わなくなりますね。
営業課長:希望退職者を募って組織のスリム化をはかっている現況を見ると、共同体ではなくなっていくと感じています。最近は特にテレワーク浸透で、この傾向が加速していますね。先生、頭ではわかっていても、染み込んだ感覚は変わらないものですね。
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