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山中龍宏「子どもを守る」

医療・健康・介護のコラム

柵をして、正しく使用していたのに…なぜ赤ちゃんはベビーベッドから転落したのか?

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 乳児の転落で最も多いのはベッドからです。消費者庁の報告「 0~1歳児のベッドからの転落事故に御注意ください! 」では、2015年1月から20年9月までの間に起きた6歳以下の子どものベッドからの転落は912件で、そのうち大人用ベッドからの転落が722件(79%)、乳児ベッドからの転落が139件(15%)でした。乳児ベッドからの転落のうち、0歳が101例(73%)、1歳が31件(22%)でした。この報告では、死亡例や重症例も紹介されています。今回は、どこでも起こりうる乳児ベッドからの転落についてお話しします。

柵をして、正しく使用していたのに…なぜ赤ちゃんはベビーベッドから転落したのか?

イラスト:高橋まや

頭が重く、重心の位置が高い乳児は簡単に…

 私のクリニックに来た患者の事例を紹介したいと思います。

事例 :11か月の男児。兄弟はいない。08年6月9日午前9時15分ころ、母親は台所で洗い物をしていた。急に泣き声がしたので和室に行ってみると、乳児ベッドの中で寝ていたはずの子どもが、畳の上に倒れて泣いていた。 嘔吐(おうと) はなかったが、心配になって午後0時に当院を受診した。

 診察しても、額が少し腫れているかなというくらいで、他に所見はありません。口の中や耳の中も異常なく、手足の動きにも問題はありませんでした。誰も見ていないので状況はわからず、「48時間様子を見て、もし、吐き続けたり、機嫌が悪かったりしたら、また受診してください。今度は気をつけてくださいね」と言って帰すしかありません。

 私は、傷害予防に取り組んでいるので、なぜ転落したのか母親に聞いてみました。子どもの体重は9キロ、身長は73センチ。発達段階は、伝い歩きができる状態でした。乳児ベッドから転落するには、「ベッドの柵を上げていなかった」か、「ベッドの中に足掛かりになるようなものがあった」といった状況があったはずですが、お母さんは「ベッドの柵は上げていた。ベッドの中に布団やぬいぐるみなど足掛かりになるようなものはない」とのこと。発見した時も、ベッドの柵は外れていなかったとのことです。そこで、実際にベッドを見せてくださいとお願いしました。

 私のクリニックの近所に住む、子どもの事故予防に関心がある女性に現場検証をお願いし、受診後8日目に、患者の自宅を訪問していただきました。ベッドの計測をしたところ、畳面からベッドの柵の上部までは85センチ、マットから足掛かりとなる 横桟(よこざん) までの高さは11.5センチ、足掛かりから柵の上部までは35センチ、柵と柵のすき間は7.8センチでした。このすき間から頭が抜け出ることはありません。そして、お子さんに実際にこのベッドに入ってもらいました。つかまり立ちをして、横桟にすぐに足をかけて登ってしまいました。身長は73センチなので、横桟に乗ると、柵の上部から38センチも体が出てしまうのです。頭が重く、重心の位置が高い乳児は、簡単に転落してしまいます。これまでは、「保護者が目を離した」「親の不注意」と指摘されていましたが、この事故はこの乳児ベッドが原因であることが明確になりました。

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。産業技術総合研究所人工知能研究センター外来研究員、キッズデザイン賞副審査委員長、内閣府教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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