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豪州リーグへ行けば日本の特別永住権失う…コロナによる国境閉鎖が在日韓国人選手に迫った「苦渋の選択」

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 曲折はありましたが、東京五輪が開幕しました。コロナ禍の重苦しさを振り払う選手らの活躍に期待したいです。

サッカーの夢苦渋の選択

残留を決断後にリーグ戦でプレーする安さん。この試合もフル出場した(6月26日、Kingborough Lions FC提供)

 今回はコロナ禍で大きな決断を迫られた一人のサッカー選手の話を紹介します。今年3月、本人から読売新聞に1通のメールが届きました。

 〈人生を懸けた挑戦を、志半ばで中断させられることなく、続けていくことができるよう力を貸してください〉

 大阪府東大阪市出身で、在日韓国人の 安柄泰アンビョンテ さん(29)。幼稚園の頃、わんぱくぶりを見かねた母親が、地元チームに連れて行ったのがサッカーとの出会いでした。いつしかプロになるのが夢になり、大学まで打ち込みました。しかし、Jリーグのチームへの練習参加が決まっていた大学4年の冬、練習中に 靱帯じんたい 損傷の大けがを負ってしまいます。

 1年間留年して就職活動し、商社に入社。夢は断念したはずでしたが、社会人チームでプレーするうち、諦めきれない思いが湧き上がります。4年で退社し、数か月間、徹底した走り込みと筋力トレーニングを重ね、2019年6月に知人の縁を頼って豪州に渡りました。「せっかくなら海外で何かを学びながらプレーしたい」と考えたそうです。

 大学時代のプレー映像を送って所属チームが決まった直後、新型コロナウイルスの感染が拡大。リーグ開幕は無期限延期となりました。リーグは半年後に始まりましたが、別の難しい問題が起きます。

 豪州政府は昨年3月、コロナ対策で国境を閉鎖。一度出国すると原則として戻れませんが、安さんは「特別永住権」を失わないために今年6月末までに日本に一時帰国する必要がありました。特別永住権は戦前、戦中に日本に移住したり、動員されたりした旧植民地出身者とその子孫に認められます。一度失うと原則的に再取得はできず、入国には何らかの在留資格を得る必要があるとされています。

 つかんだチャンスを手放すか、特別永住権を失うか――。選択の重さは想像に難くありません。私も出入国在留管理庁や大使館に尋ねてみましたが、一時帰国を猶予する特別永住者向けの制度は見つかりませんでした。そして、今年5月、豪州政府に特例で再入国を認めるよう求めていた申請も却下。最後の望みが絶たれた形ですが、メールには〈受け入れてできることをします〉とありました。

 1か月半がたった6月末、豪州に残る決断をしたとの報告が届きました。「どんな決断もサポートする」(両親)、「挑戦を続けた方がいい。帰国時には助ける」(知人の行政書士)……。周囲の助言と励ましが後押ししました。

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 現在は2部に相当するリーグでタスマニア州のチームに所属。出場給だけで生活することは難しく、夕方まで食品会社で働いた後、練習に向かう日々です。「プロ契約」「1部でのプレー」を目指し、リーグ戦にはほぼフル出場。ユーチューブの試合動画で見る安さんは、守備陣で体を張る勇敢な選手でした。

 〈全力で頑張って、良い決断をしたと思えるように努力したい〉。安さんの覚悟が、コロナ禍で理不尽な状況に直面する多くの人たちに少しでも励みになればと願います。

今回の担当は

 増田弘輔(ますだ・こうすけ) 漫画「キャプテン翼」の影響で小学生でサッカーを始めたが、働き出してからは遠のいている。

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 〒530・8551(住所不要)読売新聞大阪本社社会部「言わせて」係

 iwasete@yomiuri.com

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