ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
愛犬との再会、取り戻した生活…ダイヤモンドより輝いた1年半
今年3月のコラム で紹介した、角井ハルさん(仮名、80歳代後半)の愛犬、マルチーズのベラちゃんが、この6月末に死にました。15歳でした。私が経営する、ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」で、1年半暮らしました。
ベラちゃんと“2人”で暮らしていた角井さんが、自力で暮らすことが無理になり、とある有料老人ホームに入居したのは、2019年初めのことです。ベラちゃんは一緒に入居できなかったため、東北で暮らす弟さんに預かってもらうことにしました。
角井さんはベラちゃんと別れて暮らす寂しさに耐えられず、「さくらの里山科」への転居を希望し、2020年1月、ベラちゃんと一緒の生活を取り戻しました。
再会の時、角井さんは大粒の涙を流しながら、ベラちゃんをしっかりと抱き締めました。この時14歳だったベラちゃんは、もう高齢犬で、普段はあまり活発には動かなくなっていたのですが、甲高い声を上げながら全力で走り、角井さんにすがりつきました。
その場に居合わせた職員全員が泣いてしまった瞬間でした。
「さくらの里山科」で“2人”はいつも一緒でした。角井さんの健康状態は向上し、ベラちゃんは高齢でも元気に過ごしていました。その穏やかな暮らしに陰りが見え始めたのが今年3月のことです。15歳になったベラちゃんに認知症の症状が出たのです。
最近、ペットの長寿化が進んだことにより、ペットの認知症も増えています。ベラちゃんも15歳という高齢なので、認知症になっても不思議ではありませんでした。
犬の15歳は、人間に換算すると76歳ぐらいとなります。ただし、犬の年齢を人間の年齢に換算する方法は諸説があり、一概には言えません。マルチーズのような小型犬の平均寿命は14歳ですから、これを日本人女性の平均寿命87.74歳(2020年)とほぼ同じだと見なすこともできます。そう考えると、15歳は人間の90歳ぐらいに相当するでしょう。90歳なら、高い確率で認知症を発症します。
それまでにもベラちゃんの認知症の兆候は見えていました。ぼんやりとしていて、声をかけても反応しなかったり、同じ所をぐるぐる回ったりしていました。それでも日常生活には支障がなかったのですが、3月には、認知症のせいで餌の認識が難しくなり、自分では食べなくなってしまったのです。
人間の認知症でも、食べ物の認識ができなくなる症状はあります。手を動かして箸を使うことができるのに、自らは食事を取らなくなり、職員が食事介助する例もあります。ベラちゃんも同じケースでした。自分で餌を食べられなくなったのです。そこで、職員はゼリー状の犬のおやつを試してみました。鶏のささみとか、牛肉とか、いろいろな味のものが市販されているのです。それを口に入れてあげると食べてくれました。ゼリー状のおやつに慣れると、缶詰の介護用ドッグフードの軟らかい肉を混ぜても食べることができるようになりました。また、獣医さんに食欲増進剤を処方してもらいました。
角井さんには認知症はなく、しっかりされており、ベラちゃんが自分で何かを食べられる限りは食べさせてほしいことを希望していました。「少しでも長生きしてほしい。でも苦しい思いはさせたくない」というベラちゃんの明確な介護方針を決めてくださいました。そのおかげで、職員は迷うことなく、ベラちゃんの食べるための工夫に取り組むことができました。
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