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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

愛犬との再会、取り戻した生活…ダイヤモンドより輝いた1年半

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お母さんの願いにこたえるために精いっぱい頑張って

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新型コロナウイルス感染予防のため、施設の窓越しに雑誌の取材に応じる角井さん(右端)とベラちゃん

 少量しか食べられないベラちゃんはやせ細っていきます。そこで、普通のゼリー状おやつと、総合栄養食タイプのゼリー状おやつを混ぜて与えることにしました。さらに、獣医さんに、高栄養のゼリー状おやつ(市販はされていません)を処方してもらいました。

 角井さんにとって、この頃は、一日一日が貴重に感じられたのだと思います。毎日、ベラちゃんに「頑張るんだよ」「一日でも長く生きてね」と声をかけていました。ベラちゃんもそれを理解していたのだと私たちは考えています。理解して、お母さん(角井さん)の願いにこたえるために精いっぱい頑張っていたように思えました。

 3月の時点で獣医さんは、余命は1か月ぐらいかもしれないと診断していたのですが、ベラちゃんは2か月、3か月と頑張ってくれました。6月に入ると、自力では立ち上がれず、寝たきりになってしまいますが、それでも少量のゼリー状おやつを頑張って食べてくれました。寝たきりのベラちゃんを、職員たちは定期的に寝返りを打たせて、床ずれができないように介護していました。これは「体位交換」という介護の基礎技術の一つなのです。

 6月半ばに、雑誌「婦人公論」からの取材がありました。取材のテーマは、ペットと一緒の終活で、愛犬・愛猫と一緒に同伴入居した方へのインタビューを希望していました。しかし、インタビューを受ける候補者はあまりいませんでした。愛犬・愛猫と一緒に入居した方は何人もいるのですが、インタビューにしっかり答えられる人は少ないのです。ましてや現在は、新型コロナウイルス感染予防のため、取材の方にホーム内に入っていただくわけにはいきませんので、ベランダから窓越しに、携帯電話を使ってのインタビューとなります。それに応えられる入居者はごくわずかです。

 角井さんならできますが、ベラちゃんがこのような状態でインタビューを受けてくれるかどうか、私たちは恐る恐る聞いてみました。ところが角井さんは、「ぜひやりたい」と力強く答えてくれました。そして親戚に頼んで、インタビュー用に服を買ってきてもらったのです。角井さんは、ベラちゃんの命が尽きる前に、“2人”の姿を残しておきたいと考えたそうです。職員は角井さんの決意を聞いて涙を浮かべていました。

 インタビュー本番、角井さんはベラちゃんを優しく抱きしめながら、自分で書いた詩を見せ、ベラちゃんへの思いを訴えていました。それはまさに感動的な光景でした。

6月30日早朝、ベラちゃんは角井さんのベッドの上で、角井さんに寄り添って、静かに息を引き取りました。

 角井さんが、「さくらの里山科」でベラちゃんと一緒に暮らしたのはわずか1年半のことです。しかしその1年半は、ダイヤモンドより輝く時間だったことでしょう。

 (若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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