文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

教室に入るのが怖い…「誰とでも仲良くするいい子」が高1で突然、不登校になった理由

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 他人の本当の気持ちというのは、わかろうとしてもなかなかわからないものです。他人の気持ちを完璧にわかろうとして、苦労した高校生を紹介します。

自分は我慢して他の子に譲る子

教室に入るのが怖い…「誰とでも仲良くするいい子」が高1で突然、不登校になった理由

 亜美さん(仮名)は高校1年生の女子で、「教室に入るのが怖い」ということで受診しました。

 幼稚園時代から年下の子の面倒をよくみる子でした。欲しい物があっても自分が我慢して、他の子に譲っていました。小学校入学後は、誰とでも仲良くする子でした。皆が嫌がるようなクラスの係の仕事も、自分から進んで引き受けていました。

 中学校に入学してからは、仲良しの女子生徒からの相談を受ける機会も多くなりましたが、嫌がらずに相談相手になっていました。

 中学3年の夏休み明けから、教室に入ると、同級生からじろじろと見られていると感じたり、陰口を言われていると感じたりするようになりました。そのため、学校を時々休みました。

 全日制高校に入学後、5月の連休明けから学校を休み出しました。そのため、お母さんに同伴され、高校1年の7月に思春期外来を受診しました。

「自分の悪口を言われている」と…

 診察時の亜美さんは、緊張した表情をしていました。「教室に入ると、同級生から常に視線を向けられているようでつらい」と述べていました。同級生が教室の片隅でコソコソと話していると、自分の悪口を言われていると思ってしまいます。亜美さんは周囲に非常に過敏になって、登校できない状態でした。学校を休んで自宅にいても、以前の同級生の自分に対する態度が気になり、頭の中に浮かんできます。それがつらくて、手首を自傷することもありました。

 お母さんは、

 「これまで同級生と仲良くしており、相談ごとにも乗ってあげていた亜美が突然、不登校になって驚きました」

 と話しました。

 亜美さんは過敏な状態で不登校になっているので、少量の精神安定剤を飲みながら、2週間に1度のペースで通院することになりました。

お父さんの顔色ばかり気にして

 通院を始めて2か月が () ちました。亜美さんの不登校は続いています。診察時の亜美さんは「学校を休んでいても、気持ちはそれほど楽にはならない」と話していました。お母さんによると、

 「亜美の不登校は家庭が原因かもしれません。夫が気難しい人なので、私は、夫を怒らせないようにといつも気をつかっていました。亜美にも、夫を怒らせないように気をつかうよう言い聞かせてきました。いつも緊張した家で亜美は育ちました」

 ということでした。

 通院を始めて3か月が経ちました。亜美さんの不登校は続いています。診察室で亜美さんは、

 「私は小さい頃から、周りの人の気持ちを考えるのが習慣になっていました。お母さんから、お父さんに気をつかうように言われて育ちました。だから、お父さんの顔色ばかり気にしてしまいます。学校でも同級生に気をつかってきました。周りの空気を読んで、その場を平和に収めることに懸命になっていた気がします。自分が何か言うことで、相手を嫌な気持ちにさせたくないので、言いたいことも我慢してきました」

 と泣きながら話してくれました。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

takei-akira_prof

武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

武井明「思春期外来の窓から」の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事