武井明「思春期外来の窓から」
医療・健康・介護のコラム
「忘れ物大王」と呼ばれた小4男子 母は「ほかのお母さんが羨ましい」と…ADHDの子育てに大事なこと
注意欠如・多動症(ADHD)は、落ち着きのなさ、注意力の弱さ、衝動的になりやすいことが主症状の発達障害のひとつです。最近では子どもだけではなく、大人のADHDも注目されるようになりました。今回は、ADHDの子どもにへの対応について考えてみたいと思います。
買い物に連れて行くとすぐに迷子になる子
優太君(仮名)は、忘れ物が多いということで、お母さんとともに思春期外来を受診した小学4年生の男子です。
1歳になる前の歩き始めた頃から、優太君は落ち着きのない子でした。買い物に連れて行くとすぐに迷子になるので、お母さんは目が離せませんでした。幼稚園では、順番やルールを守って友だちと遊ぶことができません。思い通りにならないと相手の園児をたたくこともありました。落ち着きがないため、運動会やお遊戯会では、必ず先生がそばに付き添っていました。
小学校に入学後は、授業中に立って歩いたり、同級生とけんかになったりすることが多く、先生からよく叱られていました。小学2年生まではお母さんが時間割をそろえてくれたので、忘れ物をすることはありませんでした。ただ、学校からもらったプリントを出し忘れたり、宿題を忘れたりすることはありました。
小学3年生になると、授業中の落ち着きのなさは目立たなくなり、同級生とのトラブルも少なくなりました。この時期から、お母さんは優太君を自立させようと、時間割をそろえる手伝いをやめました。そのとたん、優太君の忘れ物がとても目立つようになりました。
好きなゲームになると集中力を発揮
教科書、ノート、筆入れ、図工の道具、体操着などを忘れ、そのたびに先生から同級生の前で注意され、叱られることが繰り返されました。同級生からは、「忘れ物大王」というあだ名がつけられました。優太君は、そう言われることが恥ずかしくて仕方ありませんでした。
忘れ物の多さを見かねたお母さんが、初めて思春期外来に連れてきた時の優太君は、診察室のいすに座っていることはできましたが、キョロキョロとあたりを絶えず見回していました。お母さんによると、忘れ物は確かに多くて部屋の片づけも苦手なのですが、その一方で、自分の好きなゲームになると、ものすごい集中力があるということでした。お母さんは、
「本当にバランスが悪い子なんです。普通の子どもさんを持っているほかのお母さんたちが羨ましい」
と述べていました。ADHDへの治療が始まりましたが、お母さんは「薬を使わずに経過を見てほしい」と強く希望しました。
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