武井明「思春期外来の窓から」
揺れ動く思春期の子どもたち。そのこころの中には、どんな葛藤や悩みが渦巻いているのか――。大人たちの誰もが経験した「10代」なのに、彼らの声を受け止め、抱えている問題を理解するのは簡単ではありません。今を懸命に生きている子どもたちに寄り添い続ける精神科医・武井明さんが、世代の段差に橋をかけます。
妊娠・育児・性の悩み
「このままではガンプラがかわいそう」…中3男子が9か月間の不登校を乗り越えられたわけ
不登校の子どもたちの再登校に至るきっかけは何でしょうか。今回は、立ち直った事例を通して、子どもたちが不登校を乗り越えるために何が大切なのかを考えてみたいと思います。
同級生から「お前がいたから負けた」と…
健太君(仮名)は、不登校のために思春期外来を受診した中学3年の男子です。幼稚園時代から集団から離れて、自分が好きな遊びを一人でしている子でした。ポケモンが大好きで、自宅ではポケモンの図鑑を読み、約100種のポケモンのデータを暗記していました。お父さんやお母さんは、「この子は天才なのではないか」と思ったそうです。
小学校に入学した健太君は、おとなしく、なかなか友だちを作ることができませんでした。高学年になると、ガンプラに興味を持つようになりました。ガンプラとは「ガンダムのプラモデル」の略で、アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズに登場するロボットを立体化したプラモデルのことです。
健太君はお母さんに「ガンプラを買ってほしい」とせがむことが多くなりました。最初の頃は、お父さんが製作を手伝うことがありましたが、徐々に一人で組み立てられるようになりました。
中学校入学後、学業成績は上位でしたが、運動が苦手でした。そのため、体育のバスケットボールの試合で、健太君の入ったチームが負けてしまった時、同級生から「お前がいたから負けた」と言われました。健太君はひどく傷つき、翌日から学校を休むようになりました。1か月以上も休んだので、お母さんに同伴されて思春期外来を受診したのです。
「育て方が悪かったのでしょうか」
初診時の健太君は、うつむいたままでほとんど話をしてくれませんでした。同伴したお母さんは、
「これまで何も心配したことのない子でした。中学生になって初めて、親として困るようになりました。育て方が悪かったのでしょうか」
と話してくれました。主治医からは、「今は健太君が好きなことに打ち込み、元気を取り戻すことがまず必要である」ということを説明し、2週間に1度の割合で通院してもらうことにしました。
診察室でガンプラの話を得意げに
通院を始めて1か月が 経 ちましたが、不登校は続き、自宅ではガンプラに夢中になっています。診察室では、ガンプラの話を得意げにしていきます。お母さんは、「このままで本当にいいのでしょうか」と何度も主治医に尋ね、不安な様子でした。そして、
「規則正しい生活を送らせ、学校の時間割に合わせて、勉強もやらせたほうがいいのではないのでしょうか。そうしないと、学校に戻れないような気がします」
と話しています。
好きなことをしているうちに
通院を始めて3か月が経ちました。健太君は不登校のままですが、自宅では元気に過ごしています。ガンプラをすでに数十体作り、置き場所に困っているということでした。健太君は、
「今ではオリジナルなものを始めました」
と、熱心に語り、携帯電話で撮ったガンプラの完成写真を主治医に見せてくれました。
お母さんは、好きなことをしているうちに、健太君が元気になってきたので、これでいいのかなあと思えるようになったといいます。お父さんも、学校に無理やり行かせようとは思っていません。お父さんは、健太君と一緒にガンプラを買いに行くようでした。
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