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年金繰り下げ受給拡大へ…「75歳から」なら月額84%増に
老後の暮らしを支える公的年金は、もらい始める時期が原則として65歳からとなっている。ただ、受給開始時期を先送りする(繰り下げる)ことによって、65歳でもらい始めるよりも、受け取る年金額を増やすことができる仕組みもある。
今年4月、70歳までの就労機会の確保を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法が施行された。65歳を過ぎても働いて収入があり、当面は年金なしで生活できそうな場合など、繰り下げ受給が選択肢となりそうだ。
具体的には、65歳でもらい始める場合を基準とすると、1年繰り下げれば年金の月額が8・4%増額される。5年繰り下げれば42%増となる。1か月繰り下げると0・7%増える計算で、66歳以降は月単位で繰り下げできる。
現行制度では繰り下げは70歳までとなっている。仮に70歳まで繰り下げた場合、65歳でもらい始めた場合と比べて、生涯の受給総額が多くなるか、少なくなるかは、どれだけ長生きするかに大きく左右される。
額面で単純計算すると、82歳以上まで長生きできるかどうかが、受給総額が多くなる分岐点の目安とされるが、実際にはそれほど単純でもない。日本の平均寿命(2019年)は男性81・41歳、女性87・45歳であることを考えると、自分が82歳を超えて受給できるかどうかを事前に判断するのは難しい。
このため、70歳時点で繰り下げ受給制度を利用した割合(2018年度)は国民年金(基礎年金)は1・7%、厚生年金は1・2%と、いずれも少数にとどまっているのが実情だ。
受給額が増えれば社会保険料や税金が増える要因にもなることにも注意が必要だ。年金制度に詳しい犬山忠宏税理士は「手取りの年金額を把握するには、住んでいる都道府県や市区町村によって異なる社会保険料などの負担を見極めることが大事」と指摘する。
年金制度改革によって、22年4月からは繰り下げ可能な年齢が75歳にまで拡大する。75歳まで繰り下げた場合、年金の月額は84%増となる。自分自身が「長生きリスク」をどう考えるかが、より重要になってくる。
繰り下げは「何歳まで」と事前に決める必要はない。70歳まで繰り下げるつもりでいたとしても、気が変われば、68歳からもらい始めることもできる。収入や健康状態などをよく見極めて、柔軟に対応することが重要だ。(栗原守)
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