がんのサポーティブケア
医療・健康・介護のコラム
がんのサバイバーシップとは 診断された時から亡くなるまで 中長期の合併症のフォローや就労支援も がん患者の日常を支える
高橋都・NPO法人日本がんサバイバーシップネットワーク代表理事に聞く
がん患者の闘病を支える「がんの支持医療」について専門家に聞く「がんのサポーティブケア」インタビューの第7回は、「がんサバイバーシップ」がテーマです。サバイバーシップとはがん患者の人生そのもの、治療後何年にもわたる中長期的な合併症のフォローから就労をはじめとする日常生活のあらゆる課題まで、幅広い分野にわたります。国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援部の初代部長を務め、退職後はNPO法人を設立して活動を続けている高橋都さんに聞きました。(聞き手・田村良彦)
――まずは、がんのサバイバーシップとは何か。様々な定義があるようですが、高橋さんはどうとらえていらっしゃいますか。
がんと診断された時から亡くなるまでを生きるプロセス全体のことだと、私個人は考えています。ただ、研究領域では国際的に、治療が一段落して病院から遠ざかった患者さんが抱える問題に軸足が置かれています。
――いつ頃から、注目されるようになったのでしょうか。
1980年代の半ばに米国で団体が設立されたのが始まりとされ、その10年後には、米国立がん研究所にサバイバーシップ部門ができました。2006年には、全米医学アカデミーから「がん患者からがんサバイバーへ 移行の道に迷って(From Cancer Patient to Cancer Survivor: Lost in Transition )」という記念碑的な報告書が出されています。がんサバイバーシップという考え方が市民権を得て、医療の中に位置づけられるまでには、20年ほどの時間がかかったということだと思います。
――日本ではどうだったのでしょうか。
日本ではまず看護領域を中心に始まりましたが、広く普及し始めたのは2000年以降です。私が初代の部長を務めた国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援部ができたのが2013年ですので、米国より10年以上遅かったことになります。
患者会や患者の「性」を研究テーマに
――高橋さんががんサバイバーシップの研究に取り組むようになったきっかけは何ですか。
私はもともと、一般内科医として東京の多摩地区の病院に勤めていました。地域密着型の小さな病院で、がん患者さんの暮らしにも触れる機会が多い環境でした。
医学だけではなく社会との関わりについて幅広く勉強したいと思い、30歳代半ばで東大の国際保健学の大学院に進学しました。しばらく後になってから、がんサバイバーシップという言葉を知ったとき、私がやりたかったのはこれだったんだなと確信しました。
――具体的にどんなテーマを研究したのですか。
大学院時代のテーマは、一つが患者さん同士の交流がもつ力のこと、もう一つが、がん患者さんの「性」でした。患者さんへのインタビューによって、医療者の手が届かない、体験者同士だからこそ持つピアサポートの力を知ることができました。
性を研究テーマにしたのは、インタビューした患者さんが「セックスはすごく大事だし、悩みもあるけれど、誰にも相談できない」と語っていたのがきっかけです。子作りのための性ではなく、快感や相手との結びつきのための性について、がんと関連づけた研究は、それまで日本ではきわめて少なかったと思います。
私、まだよく研究されていない分野のことが、気になってしまうんですね。「性」の問題は博士論文のテーマになりました。
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