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医療・健康・介護のコラム

『認知症とともにあたりまえに生きていく』 矢吹知之、丹野智文、石原哲郎編著

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『認知症とともにあたりまえに生きていく』 矢吹知之、丹野智文、石原哲郎編著

 副題は、「支援する、されるという立場を超えた9人の実践」。これまで「支援される側」とされてきた認知症の人と、「支援する側」だった医療・福祉関係者の計9人が、それぞれが携わってきた活動について語っている。

ひとくくりにできない「認知症」

 最初に登場するのは、若年性アルツハイマー病の丹野智文さんと藤田和子さん。ともに、講演などの依頼を受けて生き生きと活動する姿を「認知症らしくない」と言われることに悩んでいる。「認知症になると何もできなくなる」という誤ったイメージや、症状が比較的、軽い人への支援の乏しさに苦しんだ経験も共有している。

 一方で、活動を支える仲間との関わり方や、物忘れや混乱から生じる「失敗」に対する感じ方など、異なる思いも抱く。別の人生を歩んでいる人を、「認知症」とひとくくりにすることがそもそも誤りなのだと気づかされる。

 また、2人の医師は、それぞれ香川・三豊市と仙台市で、認知症の人が他の認知症の人を支援する「ピアサポート」を実践している。認知症の当事者から学んだことが、日々の診療にも生きていると語る。

当事者の力で課題を乗り越える

 残りの5人は、現場で認知症の人と関わっている福祉関係者だ。認知症の人が働いて報酬を得る東京・町田市の「DAYS BLG!」や、福岡・大牟田市で始まった、認知症の行方不明者を捜す「模擬訓練」など、全国的に知られる活動に携わっている。

 こうした前例のない試みは、どのようにして実現したのか。本書を読めば、試行錯誤を重ねる中で、迷いや葛藤を乗り越えるのに認知症の当事者が重要な役割を果たしていたことがわかる。認知症の人を「支援される側」と決めつけない関係が、ブレイクスルーにつながった。

 先進的な活動について理念と実践の両面を知り、認知症ケアのあり方を考えるヒントが詰まっている。医療・介護の専門職はもちろん、地域の中で認知症の人と共に生きる全ての人に役立つ一冊だ。(中央法規出版、2420円)

 (飯田祐子 ヨミドクター副編集長)

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