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ひきこもっていても仕事はできる…空白ではなく「充電期間」 オンラインで就労支援 

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 様々な原因で周囲に心を閉ざし、「ひきこもり」の状態になる人がいる。家庭内の状況は外からは見えにくく、本人も、心配する親も、苦しさを抱え込んでしまうことが多い。当事者の思いを知る経験者たちによる“伴走”の取り組みが注目されている。

ひきこもる気持ち わかるよ

 ひきこもりの人向けの、パソコンのプログラミング講座がある。

 「一緒にコード(指示)を見ていきましょう」。プログラムがうまく動かないと助言を求めた画面の中の男性に、講師の岡田秀一さん(41)が解説を始めた。1対1だから、分からないことはすぐに確認できる。「うまく直りましたね。焦らず続けていきましょう」

 この技術を身につけることで、企業のホームページ作成などの仕事を引き受けられる。依頼を受け、発注元とやりとりするのはメールなどでもできる。だから、「ひきこもっていても仕事をすることができます」。

 そう話す岡田さん自身、通算10年以上のひきこもり経験がある。所属する会社「ウチらめっちゃ細かいんで」(東京)は、約30人の社員の大半がひきこもりの経験者だ。自信がなく、うまくいかないと落ち込みやすい、と講師が自らの経験で分かっているから、無理なく進めるよう気遣える。

 受講料は、入門編で9万8000円(税別)。半年~1年程度、家庭教師のように伴走する。仕事をする上で求められる、周囲とのコミュニケーションが苦手な人が多い。長期間の講座でやりとりを重ねるうち、そんな“心の殻”も少しずつ取り除いていく。

 修了後は、IT企業でプログラミングの仕事をする人や、コミュニケーションに自信をつけて一般企業に就職する人がいる。岡田さんのように講師になった人も。在宅勤務が一般化し、自室で仕事を続ける選択肢は広がってきている。

 多くの親は、ひきこもる子どもが収入を得て、自立した生活をできるようになるのか心配する。いつまでも、親が生活の面倒を見続けるわけにはいかないからだ。近年、悪質な「引き出し業者」に親が高額の費用を払い、無理やり自宅から引き離して自立させようとして、トラブルになるケースも出ている。

 岡田さんは話す。「僕にとって一歩外に出る原動力になったのは、相談できる人がいたこと、誰かと話せる場所があったことです」

経験者が「大丈夫だよ」

[安心の設計 支え合い あしたへ]第5部 「ひとりじゃない」<下>

プログラミングを学ぶ受講者の質問に、自宅の部屋で答える岡田さん。受講者を励ますため、自分のひきこもり経験を話すこともあるという

 周囲の軽いノリになじめず、大学を中退。コンビニや工場のアルバイトはどれも長く続かず、「自分は駄目だ」と思い込むようになり、ひきこもったという岡田さん。履歴書の空白期間が増えるほど就職のハードルが高く感じたという。

 そんな岡田さんの外界への「小さな窓」となったのがこのプログラミング講座だった。両親としっかり話し、相談施設に通い始め、「何かに挑戦したい」と思い立った時、同社を紹介するネット記事を読んだ。

 プログラミングを学ぶのは初めてだったが、基本が身に付いたらどんどん面白くなって、のめりこんだ。2018年8月から1年で講座を修了。誘われて、昨年4月に講師になった。

 「外に出るのが怖い」「仕事をする自信がない」。受講者から受ける相談は、そのまま、かつての自分の悩みだ。「大丈夫だよ。10年以上ひきこもっていた僕も、こうして仕事ができているんだから」。受講者が自信を取り戻すきっかけになればいい。そんな気持ちで声をかけている。

「何もしていない時間」ではない

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オンラインで定例のミーティングを開く「ぽーとぴあ」の相談員ら

 「専門家ではないけれど、経験者だから話せることがあると思う」。ひきこもりの当事者や家族からの相談をオンラインで受け付ける「ぽーとぴあ」の相談員、高木信洋さん(29)は話す。

 ぽーとぴあは、「ひきこもり経験者の声をじかに聞けるような仕組みが作れないか」と考えていた大阪経済大の高井逸史教授と、当事者の自助グループ「さなぎるど」の運営メンバーらが今年2月、開設した。

 パソコン画面上でやりとりし、当事者や家族からの相談に、過去にひきこもった経験がある20~30歳代の男女5人が答える。運営費を賄うため、親などの場合は1回3000円、ひきこもり当事者や経験者は1回2000円に料金を設定している。

 人間関係に疲れて高校入学直後に学校に通えなくなったという高木さんには、カウンセリングで専門家に相談した時、「わかってもらえるか不安で一番大事な部分を言えなかった」経験がある。だから、雰囲気が硬くならないように、先を急がないように心がける。「ぽつりぽつりでも、途中まででもいい。話すことで少しでも気持ちを楽にしてほしい」

 当事者や家族は、ひきこもりを空白期間と考え、焦りを感じやすい。でも、ここの相談員たちは「充電期間」だととらえ、社会復帰をいたずらに急がせない。

 高校の頃、体形をからかわれて人と話さなくなり、大学卒業後に4年間ひきこもったという相談員の河井賢太さん(36)は「何もしていない時間ではなく、自分自身と向き合って、苦しんでいる時間。相談者には『今までよく頑張った』と声を掛けたい」と優しいまなざしを向ける。

 ぽーとぴあという名は、「港」+「仲間」の意味だ。河井さんは「支援する・されるという関係ではなくて、仲間。港のような、疲れた時に気楽に立ち寄れる場所になればいい」と話す。

孤立の背景揺らぐ家族…社会学者・宮本みち子氏

 政府は5月、「孤独・孤立」の実態を把握するために全国調査を行うことを決めた。背景や、今後必要になる取り組みを、社会学者の宮本みち子・放送大名誉教授(73)=写真=に聞いた。

 2000年代に入った頃から、孤独や孤立が社会問題として広がり始めた。この間、少子化が進み、非婚や離婚の選択も増え、「家族」の規模はどんどん小さくなった。

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宮本みち子・放送大学名誉教授

 景気や雇用情勢の不安定化で、家族であっても助ける余裕がないというような状況も生じている。もはや、家族をセーフティーネット(安全網)として期待できないことが、孤独や孤立の問題の背景としてある。

 ただ、通常時は、周囲が気付きにくい問題でもあった。それが、コロナ禍で一気に噴き出してきたと言える。仕事を失い、家族にも頼れないという人が、孤独と生活困窮が組み合わさった抜き差しならない状況に追い込まれてしまった。

 また、困窮や、自粛生活によるストレスなどがDV(家庭内暴力)につながるケースも出ている。

 厚生労働省の補助事業として全国で2012年から続いている電話相談「よりそいホットライン」は、あらゆる悩み事に24時間対応している。

 実施団体による相談者の状況分析について詳しく話を聞いたところ、悩みの原因は複合的で人それぞれだが、「聞いてくれる人が誰もいない」というのが多くの人の共通点だと言っていた。

 孤独・孤立は誰にでも起こる恐れがある問題だと認識して、対策を考えていく必要がある。「寂しい人がいる」などと個人的な心の問題として片付けてしまうのでは、まったく不十分だ。

 この問題の解決には、家族に代わって救いの手を差し伸べる存在と、人や地域とつながれる場所づくりが欠かせない。その担い手の中心は、NPOなどの民間団体になるだろう。国や自治体による公的な支援ももちろん必要だが、活動資金を寄付したり、ボランティアとして参加したりといった一人一人の協力が重要になる。

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