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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

学校を休み長時間ゲーム、止める母を殴り…「現実世界が苦しい」中1男子に残る体罰の記憶

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 思春期外来を受診する子どもたちの多くは、学校から帰宅するとすぐにゲームを始めます。そんな子どもたちに対して、親は、何とかゲームをやめさせようとして必死になります。なかには、親子がつかみ合いのけんかになることもあります。今回は、子どもたちのゲームをめぐる思いについて考えてみたいと思います。

父に叱られ、頭を叩かれ

学校を休み長時間ゲーム、止める母を殴り…「現実世界が苦しい」中1男子に残る体罰の記憶

 大樹君(仮名)は、不登校のために思春期外来を受診した男子中学生です。保育園時代から落ち着きのない子で、思い通りにならないとかんしゃくを起こしていました。そのため、お父さんから叱られてばかりいました。

 小学校入学後の大樹君は、教室では落ち着きがなく、同級生と 些細(ささい) なことでトラブルになりました。自宅では宿題をしない、片づけをしないということで、お父さんから叱られ、頭をたたかれることもありました。

 お父さんは大樹君だけではなく、お母さんにも暴力を振るう人でした。そのため、大樹君が小学3年時に両親は離婚し、その後は、お母さんとの2人暮らしが始まりました。

 学年が上がるにつれて、学校では落ち着いていられるようになりましたが、友だちを作ることはなかなかできませんでした。同級生の男子にからかわれると、うまく言葉で言い返すことができず、相手を殴ることがありました。そして、教科書やノートを隠されたり、机にいたずら書きをされたりといういじめにも遭いました。

学校を休み、昼夜逆転の生活

 中学校入学直後から大樹君は学校を休み始めて、自宅で長時間ゲームをするようになりました。ゲームをやめさせようとするお母さんに殴りかかることもありました。そのため、中学1年の2学期に、お母さんと一緒に思春期外来を受診しました。

 診察時の大樹君はふてくされた態度で、質問にも十分に答えてくれません。絶えず体を動かし、落ち着きもありません。注意欠如・多動症(ADHD)と診断されましたが、それだけではなく、お父さんからの叱責や体罰を繰り返し受けたことによる愛着の問題もあると考えられ、2週間に1度の通院が開始されました。

 大樹君はその後も学校を休んだままで、昼夜逆転の生活を送り、ゲームに没頭していました。お母さんがゲームをやめさせようとすると、また暴力を振るいました。

ゲームソフトを大量購入、携帯電話で高額課金

 通院を始めて3か月が () ちました。この頃になると、お母さんに対する暴力はなくなりましたが、ゲームソフトを大量に購入したり、携帯電話のゲームに高額の課金をしたりしていました。お母さんはお金を計画的に使うように繰り返し注意しますが、大樹君は聞き入れようとはしません。

 お母さんは、

 「大樹からゲームを完全に取り上げることは無理です。ただ、ゲームをする時間は、以前よりも短くなりました。睡眠と食事だけはしっかり取らせるように心がけています。居間に出てきた時には、できるだけ話しかけるようにしています。私も大樹がやっているゲームについて少し勉強したので、多少は話が合うようになりました。別れた夫から体罰を受け、学校ではいじめで傷ついた子ですから、今はこの状態でしょうがないと思っています」

 と話してくれました。

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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