武井明「思春期外来の窓から」
医療・健康・介護のコラム
学校を休み長時間ゲーム、止める母を殴り…「現実世界が苦しい」中1男子に残る体罰の記憶
「現実の世界が苦しくて」
通院を始めて6か月が経ちました。お母さんに対する暴力はありませんが、昼夜逆転の生活は続き、夜遅くまでゲームをしています。
大樹君は、
「今、夢中になっているのは、オンラインゲームです。夜中にならないと、仲間のプレーヤーがゲームに参加しないので、どうしても遅い時間になってしまうんです」
と話してくれました。
さらに、
「僕はお父さんに叩かれ、同級生からはいじめられてきました。現実の世界が苦しくてしかたないんです。でも、ゲームの世界は違います。今の自分が一番安心していられる場所なんです。そんなゲームの話をしても先生(主治医)は嫌がらずに聞いてくれて、『それでいいんだ』と言ってくれます。ほかの大人にゲームの話をすると、夜中までゲームしないで、朝起きて規則正しい生活をしたほうがよいとか、早く学校に行ったほうがよいなどと言われます。少しでも今の自分を否定することを言われると、お父さんに叱られた場面を思い出して腹が立ってどうしようもなくなるんです」
とも述べていました。
その後、大樹君は自分から「このままではいけない」と言い出して、適応指導教室に少しずつ通うようになりました。適応指導教室の先生とは、ゲームの話で盛り上がっているということでした。他の生徒との交流も少しずつ増え、現実世界でも楽しみを見つけたようです。
子どもたちが安心できる場所はどこなのか
こころに傷を抱えて、学校を休んでいる子どもたちが、どんな時に安心してくつろげるのかということにもっと関心を向ける必要があります。そのひとつにゲームがあるわけです。
不登校やひきこもりの子どもたちは、現実世界では得られない体験をゲームの世界で体験しています。プレーヤーとして上達することで達成感を得ることができ、仲間からの称賛を受けることもできます。また、現実世界では友だちといえるような人がいないけれども、ゲームの世界では仲間がみつかり、ボイスチャットを使って会話も可能になります。過酷な現実世界を離れ、自分に自信を与えてくれるのがゲームの世界だといえるでしょう。
子どもたちがゲームについて熱心に語る時、大人はそのような非現実な世界よりも現実世界に価値を置くような態度をとりがちです。そうすると、子どもたちとの関係はそこで途切れてしまいます。このような子どもたちに対して、まわりの大人は、ゲームの世界が今は必要であることを理解しつつ、ゲームのほかにも楽しいことや、やりがいのあることがこの世の中にたくさんあるという実感を、子どもたちが持てるようにかかわることが大切になります。(武井明 精神科医)
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