大人の健康を考える「大人び」
医療・健康・介護のコラム
幸福長寿のすすめ(7)認知症は不幸なの? 物忘れは当たり前、地域で温かく
このシリーズでは、大阪大老年・総合内科学教授、楽木宏実さんに聞きます。(聞き手・山崎光祥)
高齢者の7人に1人がかかるとされる認知症は、「不幸」と同義のように捉えられがちですが、本当にそうでしょうか。私は条件さえそろえば、本人や家族が幸せを実感しながら地域で暮らせるようになると信じています。
認知症は、物忘れなどの症状が次第に強くなり、日常生活に支障が出てくる病気です。薬や、頭の体操と運動を組み合わせた「コグニサイズ」である程度は進行を遅らせられるものの、治すことはできません。それでも、支障さえなければ症状が目立たず、家族がストレスを感じないことはあります。実際に私が経験したある患者は、物忘れの検査の点数は低かったにもかかわらず、生活に困っていなかったため、家族に認知症という認識はありませんでした。
これは家族が物忘れを高齢者にとって当たり前のことと捉え、温かく支えた結果だと思います。各家庭に事情はありますが、入所や通所の介護施設と早くから連携すれば似た対応はできるでしょう。施設の職員は認知症の経験が豊富なので必ず力になってくれます。
治療薬や予防薬の実現はもう少し先ですが、専門性の高い医療者は増えつつあります。がんや心臓病といった高齢者に多い病気の人も認知症を抱えながら診療を受ける時代です。国は介護を含めた地域連携の推進役として「認知症サポート医」も養成しています。
認知症を不幸と捉えなくて済む医療・介護の体制整備を進めると共に、認知症の人を温かく受け入れる心を社会で共有し、地域全体で見守ることが何より大切です。本人や家族が共に幸福だと感じられる社会こそが、真に幸福な社会だと考えています。
【略歴】
楽木 宏実(らくぎ・ひろみ)
1984年、大阪大学医学部卒業。89ー90年、米国ハーバード大学、スタンフォード大学研究員。2004年、大阪大学大学院加齢医学助教授、07年から同老年・腎臓内科学教授。内科学講座の改組により15年10月から現職。
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