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お金はもう7、8万円しかない、死にたい…小さなSOSの声逃さず「ひとりじゃないよ」 

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 昨年、自ら命を絶った人は2万1081人。生活苦や家庭・職場の問題、病気など様々な要因が絡み合い一線を越えさせるという。それでも、ぎりぎりで踏みとどまるケースも少なくない。小さなSOSの声を受け止め、「生きる希望」を一緒に見つけ出そうとする地道な活動が続いている。

生活苦、家庭の悩み専門職が対応

秋田のNPO法人

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相談に訪れた男性(手前)に花を見せる佐藤さん。「日常の中にある小さな幸せを、生きていく力にしてほしい」と願う(秋田市で)

 秋田市で自殺防止に取り組むNPO法人「 蜘蛛くも の糸」が5月に開いた「いのちの総合相談会」。訪れた女性(48)は「お金はもう7、8万円しかない」と小さな声を絞り出した。うつむいて、死にたい、とも口にした。産業カウンセラーの田中洋子さん(72)が優しいまなざしを向けた。「苦しいよね。よく来てくれたね」

 うつ病で通院しているという女性。関西から秋田へ嫁ぎ、数年前に離婚した。2人の子どもの親権は元夫にあり、面会はかなわない。両親は他界して帰る実家もない。2匹の飼い猫と暮らして寂しさを紛らわせてきたが、生活のこと、病気のことをひとりで考えて不安が限界に達し、役所の担当者の紹介で連絡してきた。

 田中さんは、女性と同じ40代で離婚した自身の経験も織り交ぜつつ、「大変な人生を送ってきたね」と寄り添った。この日は、家賃が今より安い住まい探しと生活保護の手続きに協力することを約束して、見送った。「ひとりじゃないよ」

 蜘蛛の糸は、会社経営に失敗した友人を自殺で亡くした理事長の佐藤久男さん(77)が「ひとりで悩んでいる人が『生きたい』という希望を取り戻すまで、そばで寄り添う存在が要る」との思いで、2002年6月に設立。空中ブランコの下に張り巡らせた安全網をイメージした名称で、息の長い取り組みを続けている。

 当初7年ほどは佐藤さんの携帯電話などで1000人以上の相談にひたすら耳を傾けた。その中で、金銭問題や仕事、家庭のトラブル、健康問題など自殺を考える人が抱える問題は複雑に絡み合っていることを実感。「解決の道筋を考えるには、プロの力が必要」と各分野の専門職に協力を求め、少しずつネットワークを広げた。

 現在は、弁護士や臨床心理士、社会福祉士、キャリアコンサルタントなど25人の相談員が協力し、悩みや困りごとに総合的に対応している。

 さらに、「個人でなく、社会の問題」として、県民に広く関心を持ってもらおうと、10年からは、行政や地元医師会、経済団体などを巻き込んだ「秋田ふきのとう県民運動」の中心として、自殺防止の街頭キャンペーンを展開。毎年のように全国ワーストが続いた秋田県の「人口10万人あたりの自殺者数」が改善するなど、光も見え始めている。

 コロナ禍で昨年4月、20年以上勤めた縫製工場を解雇された男性(51)が相談に訪れたのは14回目。「仕事を探して1年になるが、うまくいかず、絶望ばかり」と涙をこぼす男性。佐藤さんは花瓶の草花を見せ、「花を見て『きれいだな』と感じるような、小さな幸せを積み重ねて生きていこうよ」と手を握った。

 それから約1か月後の6月中旬、男性から「就職が決まった」と朗報が届いた。

「自殺」検索→相談窓口表示

 インターネット上に漂う“自殺をほのめかす言葉”を捉え、誰ともつながれず、SOSを発している人たちを支援する団体もある。

 東京都渋谷区を拠点に活動するNPO法人「 OVAオーヴァ 」は2013年から、「インターネット・ゲートキーパー(命の門番)事業」を展開する。

 スマートフォンやパソコンで「死にたい」など自殺を暗示する言葉で検索すると、そうした内容を含むホームページ一覧の前に、メールによる相談窓口のページが広告として表示される。「不安な気持ちを相談してみませんか?」

 代表理事の伊藤次郎さん(36)は「『死にたい』と考えている人を街中で捜すのは困難だが、ネット上では、関連した言葉が月10万件以上も検索されている。メールなら、助けを求める心理的なハードルも下がるはずだ」と話す。

 神奈川県座間市で17年、SNS上で自殺願望を書き込むなどした若い男女9人が殺害された事件が起きた。同じ年、政府の自殺総合対策大綱の改定でインターネットの活用が盛り込まれ、自治体から相談業務を委託されるように。昨年度は横浜市など8自治体で約900人の相談に応じた。

 スタッフ約20人が交代で、毎日午前8時~午後10時に対応している。1日に約60~70件のメールをやり取りし、必要に応じてLINEや電話でのやりとりに切り替える。

 「自殺を考える人は『助けてほしい』『助けてほしくない』という相反する思いを抱えている。周囲にSOSを出せない人と一人でも多くつながりたい」と伊藤さんは話す。

よりそいホットライン
(電)0120・279・338
https://www.since2011.net/yorisoi/

厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」
(電)0570・064・556

文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」
(電)0120・0・78310

よりそいチャット
https://yorisoi-chat.jp/

いのちと暮らしの相談ナビ
http://lifelink-db.org/

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