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リングドクター・富家孝の「死を想え」

医療・健康・介護のコラム

どうして力士は短命なのか……歴代横綱の平均没年齢は62歳、相撲改革が必要!

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先代の音羽山親方も43歳で急逝

どうして力士は短命なのか……歴代横綱の平均没年齢は62歳、相撲改革が必要!

 光法の死を知り、私は不思議な巡り合わせを感じました。それは、先代の音羽山親方、元大関の貴ノ浪も43歳の若さで急逝していることです。死因は心不全でした。突然の発作に襲われ、そのまま逝ったと聞いています。貴ノ浪は、現役時代から心疾患をかかえていました。

 2人の元力士、それも同じ元音羽山親方の若き死。たまたま運悪く重なったこととは思いません。力士の早死には、昔からずっと続いてきているからです。

 私は学生時代に相撲をやり、後年、母校の相撲部の監督を務め、ボクシングやプロレスのリングドクターをやってきました。その経験から言うと、力士の短命は偶然ではありません。とくに、横綱は短命が当たり前になっています。

横綱は短命

 戦後、昭和の土俵に上がった歴代横綱、つまり第35代の双葉山から第62代の大乃国までですが、そのうち亡くなった横綱の没年齢を調べると、その平均年齢は62歳です。以下、その一覧を示しましたので、ご覧ください。

どうして力士は短命なのか……歴代横綱の平均没年齢は62歳、相撲改革が必要!

 現在、日本人男性の平均寿命は81.41歳で、平均寿命自体が昭和、平成を通して延びてきているとはいえ、現在の平均寿命を超えた横綱は、若乃花(初代)と栃ノ海の2人。戦後の昭和に横綱になったのは全部で28人ですが、このうち健在なのは、北の富士さん(79歳)、三重ノ海さん(73歳)、二代目若乃花さん(68歳)、北勝海さん(58歳)、大乃国さん(58歳)の5人です。

食べて寝て体重を増やす力士の生活

 医学的な見地から、人間の健康を考えた場合、力士がやっていることはめちゃくちゃです。ひと言で言うと、食べて寝て体重を増やす。そして稽古。毎日がこれの繰り返しです。起きたらすぐに朝稽古、その後はたっぷり食事、そして午後は4時まで昼寝。こうした生活をすると、中卒で入門した体重70~80キロの新弟子が、2、3年で150キロを超えます。こんなに極端な人体改造をするスポーツはほかに思い当たりません。

 無理に無理を重ねて、急激に太る。そんなことをすれば、心臓に負担がかかり、血管系の疾患の確率がグンと上がります。また、食べ物が偏れば血糖値が上がります。

力士の体重は増え続けている

 スポーツにはそのスポーツに合わせた理想的な体形があります。しかし、力士に関しては、太ることを追い求めすぎていることが気になっています。近年、力士の体重は増え続けているからです。

 私が母校で監督をしていたころは、千代の富士、輪島などの全盛時代でした。千代の富士は鍛え抜かれた筋肉質の理想的な体形をしていました。「鋼の横綱」と呼ばれ、全盛時の強さは目を見張るものがありました。

 輪島の「黄金の左」も忘れられません。あの左下手投げは、右のおっつけがすごかったので、いつも見事に決まったのです。

 千代の富士も輪島も、大型の肥満体形力士ではなかったので、長生きすると思いましたが、2人ともがんで亡くなってしまいました。輪島と覇を競った北の湖もやはりがんのため62歳で亡くなっています。

 がんで寿命を縮めることもありますが。食べて寝て、とにかく体を大きくするという相撲のあり方がいいとはとても思えません。ある程度大きくなることは必要でも、筋肉質の相撲体形で勝負するスポーツにしなければいけません。

ガチンコ相撲で土俵自体が危険

 そしてさらに、次の2点を改善すべきです。一つは、土俵の改造です。相撲は、ある意味でもっとも危険なスポーツです。あの巨体同士が、全力で激突するのですから、けがが絶えません。力士たちは、その恐怖とも闘っています。

 真剣勝負を「ガチンコ」と言います。これまで何度も八百長の告発がありましたが、最近の相撲を見ていると、ガチンコの迫力を感じます。こうなると、土俵は本当に危険です。転落すれば即けがにつながります。いまの60センチという土俵は、高すぎます。これを低くし、土俵脇にクッションを敷くなどして力士を守るべきです。

年6場所に地方巡業、力士には過酷な状態

 もう一つは、興行のあり方です。江戸時代、力士は川柳で「一年を二十日で暮らすいい男」と 揶揄(やゆ) されました。当時の相撲興行は、年2回それぞれ10日間だったので、このような川柳ができたのです。

 実際、江戸時代の本場所は年2回、おのおの10日間の開催でした。それが11日になり、13日になり、戦後は15日になりました。そのうえ、九州場所と名古屋場所が加わって、年6場所90日制になってしまいました。さらに、場所の間には地方巡業が組まれます。

 力士の身体には過酷な状態だと思います。横綱を始め多くの力士がけがで休場するのは、こうした背景があります。一世を 風靡(ふうび) した力士が、常に早死にしてしまう。改めるべきところがあると思います。(富家孝 医師)

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富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。前新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

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