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自殺するために東京に出てきた…街で女性の苦しみに寄り添う「別の居場所もあるんだよ」

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 悩みを抱えたり、トラブルに見舞われたりした時、人との「つながり」が気持ちを楽にしてくれることがある。でも、孤独や孤立を感じ、ひとり思い悩んでいる若い女性が少なくないという。人と会いにくくなったコロナ下で、こうした女性たちに寄り添い、支える取り組みの現場を訪ねた。

NPO法人「BONDプロジェクト」

[支え合い あしたへ]第5部 「ひとりじゃない」<上>

渋谷の街で少女の話を聴く竹下さん。この夜は約1時間半、大通りや路地を歩き回った

 「10代、20代の女の子の声を聞いている BONDボンド です。少し話を聞かせてもらってもいい?」

 東京・渋谷センター街近く、午後8時半。多くの人が行き交う横断歩道の手前で、NPO法人「BONDプロジェクト」の竹下奈都子さん(33)が少女(17)に明るく声をかけた。視線や様子で、家に帰りたくないという思いを感じたからだ。

 「何歳?」「きょうはどこ行ってたの?」。そんなやりとりをするうちに、少女は自分のことを話し始めた。「まっすぐ帰りたくなくて、ウロウロしてた。親は学校に行けってうるさいから」。アルバイト帰りという少女の腕には、自傷行為の痕がいくつもあった。

 15分ほどの立ち話。諭したり、とがめたりはしない。「電話で話せる友人がいて、コロナが落ち着いたら会う約束をしてるんだ」。うれしそうに話す少女の声に、「いいね!」と喜んだ。

 次に会う約束はしなかった。かわりに、悩みを抱えている10~20代の女性たちの声を載せた薄い冊子を手渡した。虐待、いじめ、家出、自殺願望……。それぞれに悩み、苦しみの渦中にいる若い女性たちの声に続き、メールやLINE、電話で相談を受け付けていることを記してある。

 「何かあった時、誰かに話を聞いてほしい時に思い出してくれたら」と思う。

 竹下さんらが活動を始めて12年。「つなぐ」という意味の団体名には、悩む女性たちとつながり、支援につなぐ役割を果たしたいとの思いが込められている。

 家に帰りたくなくて、SNSで知り合ってすぐの男性の部屋に身を寄せ、性被害に遭ってしまう。そんな落とし穴が孤独感と背中合わせに存在している社会。「支援の緊急性が高い」として、10代、20代の女性に絞って相談を受けている。

 相談スタッフ約20人は同世代の女性たちで、2020年度はLINEだけで1万9000件の相談があった。話を聞き、必要なら会いに行くこともある。

 コロナ下でオンライン面談も始めた。家族との関係に悩み、飲食店での仕事を失って、体調面でも不安を抱えるという女性(23)は、初めて話した頃と比べて落ち着いた表情に見えた。

 半年前、「SNSで知り合った人と自殺するために東京に出てきた」と連絡をくれた女性だ。「相談できていなかったらどうなっていたかわからない。助けてもらったことに、いつか恩返ししたいな」。アルバイトを始めたという女性は、前向きな言葉を口にした。

 「誰にも頼れず思い悩む女の子に、『別の居場所や考え方もあるんだよ』と伝え、自分でしっかり選択しながら生きていけるように支えたい」。竹下さんはそんな思いで、少女たちの話に耳を傾けている。

家以外にも居場所、話し相手

秋葉原「まちなか保健室」

[支え合い あしたへ]第5部 「ひとりじゃない」<上>

まちなか保健室を訪れた女性たちと過ごす谷口さん。「何でも話しやすい場所にしたい」

 JR秋葉原駅前から10分ほど。民家を改修した「まちなか保健室」は、様々な問題を抱えた女性たちがほっと一息つける“居場所”だ。若い女性を相談などで支える一般社団法人「若草プロジェクト」が昨夏、開設した。

 何をするところ、と決まっているわけではない。読書や勉強をしても構わないし、訪れた女性同士で会話が弾むこともある。もちろん、看護師や精神保健福祉士など交代で詰める専門職のスタッフに悩みを相談してもいい。英会話や手芸の教室も、時々開かれる。

 この日、訪れた大学2年生(20)は、かつて親から虐待を受けていた。大学生になり、都内で一人暮らしを始めたが、授業はオンラインばかりで友達ができない。不安や焦りを感じた時、保健室に足が向く。「話を聞いてもらうと、自分を大切に思ってくれる人がいる、生きていていいんだと思える」

 スタッフとして週2回働いている看護師の谷口知加さん(41)は、悩みを打ち明ける若い女性たちに自分の考えを押しつけるようなことはしない。「いろいろな年代の人と接する中で、自分の気持ちを素直に伝えられるようになることが第一歩だから」と話す。

 病気やけがの時だけでなく、ちょっと抜け出したい時にしばらく居させてくれた学校の保健室のような場所――。そんな思いで作ったこの空間には、想定していたより多くの人が集まってきているという。

切迫したケース一時保護

虐待、親からの暴力…コロナ禍で悪化

 コロナ禍の影響は、若者や女性らにより重くのしかかっている。

 「LINEでの相談で、ほとんどの子が、死にたい、死にたいと言ってくる」

 2月に開かれた内閣府の有識者研究会。「若草プロジェクト」代表理事の大谷恭子さん(71)が若い女性たちの深刻な状況を報告した。

 虐待や親の暴力など、家庭内での問題がコロナ禍で悪化しているケースが目立つという。関係が悪かった親の在宅時間が延びて帰りにくくなったり、親が失業して暴力がエスカレートしたり……。

 特に、10代などでは「家庭」がすべてと思いがちだ。どこにも居場所がないとひとりで思い詰め、薬物の過剰摂取に走ってしまう子もいる。

 若草プロジェクトでは「保健室」のほか、より切迫した状況にある若い女性を一時保護する施設を運営している。大谷さんは「家以外にも居場所があるよ、ひとりじゃないよ、というメッセージを送り続ける必要がある」と訴える。

 困窮の影も忍び寄る。非正規雇用で働く24歳以下の女性は、2020年は140万人と前年より13万人減少した。飲食店の休廃業などで収入が途絶えた若い女性も多いとみられる。仕事を失うことで社会とのつながりが切れて孤独に陥る、そんな状況も懸念される。

 同研究会が4月にまとめた報告書は、コロナ禍の困窮や家庭内の問題で、「崖の近くにいた子が、崖のぎりぎりまで追い詰められている」と若い女性について指摘した。

20・30代半数「孤独感」

[支え合い あしたへ]第5部 「ひとりじゃない」<上>

 20代、30代の女性の5割超が日常で孤独を感じている――。野村総合研究所が今年5月、全国の男女約2000人にインターネットで調査した結果だ。孤独は高齢者などの問題だという印象が強いが、若い女性に広がる孤独感がデータからもうかがえる。

 コロナ禍の若い世代は、新しく社会に出たり、進学したり、本来なら他者との「つながり」ができていく時期に、在宅勤務やリモート学習を求められた。同研究所の坂田 彩衣あい ・副主任コンサルタントは「職場で同僚と仕事をしたり、友達と飲み会やスポーツ観戦をしたりという、直接、対面しての交流が減ったことの影響が、孤独感を高めている可能性がある」と指摘する。

 女性は20代前半で9割、20代後半では6割が未婚で、単身者の割合が他の世代より高いという事情も考えられる。

 人によっては、結婚や出産など私生活の節目が重なる時期。また、正社員か非正規かなど働き方もそれぞれ違う。昔からの友人に連絡を取ったり、会ったりするのが途切れやすい年代だということも、孤立感が深まりやすい背景にあるかもしれない。

 経済産業研究所の藤和彦コンサルティングフェローは、「SNSなどインターネットを介した人間関係の比重が増していることが若い世代の特徴だ。困った時に迷惑をかけてもいい、と思えるような深い友人関係を築ける場が必要ではないか」と話す。

 

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