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「良い母親の仮面をかぶっている」と警察は妻に…長男と離され1年半 乳幼児揺さぶられ症候群に無罪相次ぐ

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 親が子どもに暴力を振るったり、食事を十分に与えなかったりする児童虐待。悲惨なニュースが流れるたび、胸を痛める人は多いでしょう。

 私自身、様々な虐待事件を取材してきました。「ストレスで殴った」。法廷で親が身勝手な言い分を述べる様子に、何度も憤りを覚えました。

 しかし、近年、赤ちゃんの頭を激しく揺さぶると起きる「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」を巡り、無罪判決が相次いでいます。虐待ではなかった、ということです。

 「虐待をしていないのに、親子が引き離されるなんてことがあるのか」。児童相談所が子どもを家庭から引き離す「一時保護」の取材は、そんな疑問からスタートしました。

虐待親子の声に向き合う

長男が入院した時に折った千羽鶴を手に当時を振り返る菅家さん

 2年前、大阪府守口市の菅家英昭さん(48)に出会いました。菅家さんの長男(4)は、生後7か月だった2017年8月、自宅で転倒し、3か月後、児相にSBSを疑われ、一時保護されました。夫妻は虐待を否定しましたが、1年後の18年9月には妻(41)が傷害容疑で逮捕されました。

 警察からは「良い母親の仮面をかぶっている」と心ない言葉もぶつけられたそうです。夫妻が依頼した医師が「転倒が原因」との意見書を出し、妻は3か月後に不起訴となりましたが、長男は家庭に戻されず、離ればなれの生活は1年半に及びました。

 SBSを巡っては近年、医学界で「家庭内の転倒でも起きる」との見解が知られるようになっています。

 菅家さんは同じ境遇の家族ら約40人と会を作り、適切な一時保護を求める活動をしてきました。今年1月には、厚生労働省の有識者会議に招かれ、体験を話しました。

 「虐待は絶対に許されません。同じように虐待がないのに子どもが親から引き離されてしまうこともあってはならないはずです」と訴えます。

 一時保護を経験した親子や児相関係者に同僚と取材を重ね、キャンペーン「一時保護を考える」として、現状と課題を紙面で伝えてきました。

 取材では、虐待が急増する中、現場で制度疲労が起きている実態が見えてきました。

 1年以上にわたって次男が保護され、裁判所で虐待を否定された兵庫県明石市の夫妻のケースでは、市が夫妻に謝罪し、4月から第三者が一時保護の妥当性を審査する全国初の制度を始めました。

 菅家さんが出席した厚労省の有識者会議も4月、一時保護の透明性を高めるため、家庭裁判所の承認を広く義務づける新制度を提言し、国が検討を始めました。いずれも当事者の声が動かしたのです。

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 一方、子どもに暴力を振るい、適切な育児ができない親はいます。言うまでもなく、子どもを守るため、児相が保護をためらうことがあってはなりません。その前提で、誤った判断による親子の分離を防ぐにはどうすればいいか。記事化にあたり、同僚や上司と何度も議論してきました。

 新聞の役割は、埋もれている当事者の声をすくい上げ、社会のひずみを伝えることだと考えています。

 虐待問題は複雑で、様々な要因が絡み合います。取材は道半ば。助けを求める声に向き合い続けようと思います。

今回の担当は

 増田尚浩(ますだ・たかひろ) 児童養護施設や里親の元で暮らす子どもの現状についても取材を進めている。3児の父。36歳。

身近な疑問や困り事、記事への感想や意見を寄せて下さい

 〒530・8551(住所不要)読売新聞大阪本社社会部「言わせて」係

 iwasete@yomiuri.com

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