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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

「終末期の選択」患者にいつ切り出せばいいのか…七つのタイミングとは?

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「突然の発作」「治療法の選択」もタイミング

  「イベントがおきた時」のなかでは、とくに「突然の発作などがおきた時」です。今回の調査では、比較的、医師が、ACPの話し合いをはじめるべきタイミングと考えていました。 閉塞(へいそく) 性動脈硬化症の60代の男性について、医師は「心臓が悪くなり、肺炎も状態が悪く、集中治療室に入った。自分で意思決定することがやや難しくなってきた状況もあり、これからのことを考えなくてはと思った。ただ、少しタイミングとしては遅かったかもしれない」と語りました。イベントがおきた時というのは、患者さんや家族にとっても、事態の深刻さを受け止めざるを得ない状況です。そのため、今後のことを考える機会になりますが、精神的にショックを受けている心配もあり、患者さんの状況をふまえつつ慎重なアプローチが求められます。

 次は「治療法の選択」というタイミングです。 (すい) 臓がんの80代の男性の場合、医師によれば「転移した時点で、その後の病気の展開はある程度予測していた。『この状況だと標準治療では抗がん剤を使うが、膵がんではあまり種類が多くない』と話し、『どうしていきたいかを考えていきましょう』と伝えた」といいます。今後の治療の全体像を伝えることで、早めにACPを考えるきっかけにしています。

 「療養場所の選択」というタイミングもあります。肺がんの80代の男性は、徐々に食事の量も増えていき、看護師と退院のことを話していました。家の構造とか訪問看護を取り入れた方がいいかどうかといった話題の中で、看護師は「最後、どこでどんなふうに過ごしたいか」と、自然な流れで話を向けています。

病状が落ち着いたこともきっかけに

 「認知機能の低下」もACPを考えるきっかけになります。腕の骨折で整形外科に入院していた80代女性について、看護師は「以前、別の病気で入院した時より、認知機能が低下している」と感じました。ただ、時間をかければ話を聞くことができたので、1週間くらいかけ、いろいろな人が聞いていきました。今後のさらなる認知機能の低下を予測しつつ、時間をかけ、忍耐強く取り組んでいます。

 最後は「イベントが落ち着いた時」です。心不全の症状がある80代の女性。「手術はせず、なるべく入院しないで生活できるよう気を付けたい」と本人は言っていましたが、その後、状態が悪くなり、入院となりました。治療により改善した直後の外来で、看護師は「この間みたいに人工呼吸器を付ける状態になったらどうしたいですか。ご家族と一緒に考えてみてはどうでしょう」と問いかけています。症状悪化などのイベントが過ぎた後は、患者さんの状況も落ち着いており、むしろACPについては考えにくいかもしれません。しかし、「そうした経験をしたからこそ、今後同じことが起きた時にどうするかを考える契機になる」と、看護師は考えています。

医療者の経験をふまえ、ACPを考えるきっかけを

  なぜこのような話し合いのタイミングにこだわっているかというと、先述したように、自分の病気の見通しとそれに伴って心身がどうなるかを、患者さんが具体的に想像するのは難しく、後から振り返って、「このような状態になるんだったら、あの人に会っておきたかった、これをしておきたかった」ということになりかねないからです。医療者が、これまでの経験をふまえつつ、ACPを考えるきっかけを作ることによって、患者さんや家族が人生を見つめ、何が大切なのか、何をしておきたいのか、何を考えておきたいのかを自分なりに考える時間が持てるのではないかと思います。

 強調したいのは、たとえ医療者がタイミングを示したとしても、図に示したように、患者さん本人に「ACPについて考えたい」という意図や意向があることが重要だということです。そして、人の意思は変化し得るものですから、固定的にとらえないことも肝心です。(鶴若麻理 聖路加国際大教授)

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。

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