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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

「終末期の選択」患者にいつ切り出せばいいのか…七つのタイミングとは?

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  以前のコラム で、アドバンスケアプランニング(advance care planning:以下「ACP」とする)について考えました。ACPとは、「将来の意思決定能力の低下に備え、今後の治療・ケア、療養などに関する本人の意向や選好を、本人を主体として、家族など本人が大切に思う人物や医療者と共に事前に考え、継続的に話し合うプロセス」を指します。病気を抱え、この先の身体の状況、選択できる治療等を具体的に想像できないとリアリティーをもってACPを考えるのが難しいため、看護師が、患者本人がACPを考える支援をしているケースをいくつか紹介しました。今回のコラムでは、医師や看護師が「ACPの話し合いをはじめたほうがよいのではないか」と判断するのは、具体的にいかなるタイミングなのか、という点から改めて考えます。

患者が意向を示した場合はいいが…

「終末期の選択」患者にいつ切り出せばいいのか…七つのタイミングとは?

 以前、私が行った調査(Tsuruwaka他 When do physicians and nurses start communication about advance care planning? A qualitative study at an acute care hospital in Japan, Asian Bioethics Review, 12号, p.289-305, 2020年)から見ていきます。この調査では、急性期病院の医師と看護師26人(医師7人、看護師19人)に、ACPの話し合いをした具体的なケースを語ってもらいました。

 医療者が考えるACPの話し合いをはじめるべきタイミングには、患者が意向を表した場合のほかに、七つのタイミングがありました。この七つは、医療者が患者さんの状況をふまえて、「話し合いをしたほうがよいのではないか」と考えたタイミング(図)です。

「終末期の選択」患者にいつ切り出せばいいのか…七つのタイミングとは?

 患者さんが意向を表出した時に、医療者が、ACPに関する話し合いをはじめるタイミングだと思うのは、ACPの考え方からして当然でしょう。たとえば、80代の乳がんの女性は、「これから先、とにかく穏やかに過ごしたい、苦しくなく、みんなで楽しく暮らせるような過ごし方をしたい」と看護師に語りました。このような、ベットサイドでの患者さんの言葉から、「今の治療をどうするのか」「どういう療養の仕方がよいか」について、さらに医師や家族を交えて具体的に話をしていきました。また骨髄異形成症候群(MDS)の70代の女性のケースでは、医師によると「息子さんと外来にきて、もう無理な延命はしてほしくないと何回も伝えてきた」といいます。そのため、この医師はリビングウィル(終末期の医療やケアについて事前に自分の意思を示しておく書面)について考えることを提案し、ご家族と話し合うよう伝えています。

今後、判断能力が低下することも予測

  「病気の変化」も、ACPの話し合いに向かう大きなターニングポイントになっていました。その一つは、「予後の予測が見えてきた時」です。乳がんの60代女性のケースについて、医師は「他院からの紹介で入院した時には病気が進行していて、肝臓への広がりを見ると、終末期のフェイズに入っていくことになる」と話します。今後、判断能力が低下することも予測されることから、この医師は、「患者さん自身が、今、何を大切にしたいかを考えるタイミングだ」と考えました。そして、入院時点から、これからの病気の進行と心身への影響について話し、患者の意向を聞いていきました。

 続いて、「症状緩和」というポイントです。肺がんの50代の女性について、看護師は「最後となる抗がん剤治療が始まるちょっと前くらいには、緩和ケアへどうつなぐかを具体的に考えた」といいます。そして、診察に同席し、「いろいろ今後のことを考えていきましょう」と語りかけています。

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。

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