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コロナ禍と「面会制限」<中>「話ができる最後の時」見極め…看取りに配慮した緩和ケア病棟

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 「面会制限」の判断が、存在意義を揺るがしかねない衝撃を伴ったのが、緩和ケア病棟だ。患者が最期まで自分らしく生きることを支える役割と、全員を感染から守る安全対策。その両立が求められるなか、現場は試行錯誤を続けた。

感染対策と病状両にらみ

目立つ空床

[医療の意思決定]コロナ禍と「面会制限」<中>緩和ケア「家族との時」守る

古巣の緩和ケア病棟で患者と話す星原さん(左)=富永健太郎撮影

 南生協病院(名古屋市)の看護師、星原美保子さん(62)は、今年4月まで緩和ケア病棟(20床)の看護師長を務めた。

 患者は人生の最終段階にいる人たち。感染すれば重症化のリスクが高く、クラスターの発生は最悪、病棟閉鎖を招く。看護師も感染症のエキスパートではない。安全対策の重要性を感じつつ、いつも問い続けた。「患者は家族がそばにいてこそ安らぐ。面会制限は緩和ケアのあるべき姿か」

 最初の制限は昨年3月。 看取みと り以外の面会が1日30分に短縮された。

 患者のなかで落ち着かない人が増えた。入院前には、本人や家族から一番に制限の状況や他院の情報を聞かれる。ベッドが空いても、面会できないならと渋る人。入院をギリギリまで延ばす人。入院をやめて自宅療養を選ぶ人……。空床が目立つようになった。

 8月、愛知県独自の緊急事態宣言が出された。病院は、感染の拡大状況に合わせた入院患者の行動や面会の基準を明文化した。緩和ケア病棟では、看取りの面会も「直前」に限られた。家族が間に合わないこともあった。

 宣言解除後の面会をどうするか。院内には、リスクが高い緩和ケア病棟に対し、引きつづき原則、面会禁止を求める声があった。

 結局、病棟は面会再開に踏み切った。1回につき3人までで15分。ボランティアの活動はやめる。総看護課長は「看取り段階にある患者さんの面会は、一般病棟を含めて可能」とし、個々の判断を現場に委ねた。緩和ケア病棟では、医師ではなく星原さんがその役割を担った。

「最後」見極め

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 星原さんは夜中でも判断を迫られた。最も重要なのが公平に「面会自由」に踏み切るタイミングだ。

 意識レベル、表情、尿量、呼吸、病状……。「話ができる最後の時」を見極め、家族に伝える。状況は患者ごとに異なり、数値化は難しい。自分の判断と根拠を病棟の看護師らに説明し、見極めの「感覚」を共有した。8月末には、夜勤の看護師が相談しあい判断できるようになった。

 家族のケアにも気を配った。連絡を欠かさない。家族の都合のよい時間に患者の携帯電話で電話し、会話をサポートした。

 50代の長女が、死に向かう80代の母の姿を受け止められずにいた。例外的に泊まることを認め、「一緒に時間を過ごしてほしい」と伝えた。娘は落ち着き、1か月後、母を看取った。

 面会を切望する大家族には、患者の男性をエレベーターホールに連れ出し、対面を実現させた。

 星原さんは今年4月、病院と同じ南医療生協が運営する在宅診療所に移った。全国的にも、入院を避けるために在宅療養のニーズが急増している。

看取った遺族 一定の満足感 ケアの質維持課題

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宮下光令教授

 コロナ禍のなか、緩和ケア病棟の約7割がケアの質低下を実感していることが今月、NPO法人「日本ホスピス緩和ケア協会」(志真泰夫理事長)の調査で判明した。ただし、遺族の大半がケアに満足していたことも、東北大学の宮下 光令みつのり 教授(緩和ケア看護学)=写真=が行った別の調査で明らかになった。

 面会制限下で看取りを経験した遺族268人の満足度を5段階で尋ねたところ、「非常に満足」38%、「満足」46%、「やや満足」12%で、計96%を占めた。

 面会制限についても「仕方がなかった」とする声が多く、患者と家族の交流に努力する姿勢が評価されていた=表=。

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田村恵子さん

 日本の緩和ケア看護の草分けの一人、京都大学教授の田村恵子さん=写真=は、「面会は、本人と家族、スタッフが信頼関係を築くための基本要素で、その上に本人の意思を尊重した看取りが成立した。本人の情報や、息づかいを共有しながら医療やケアの内容を決めてきた。当たり前だった前提を失い、みんなが最善の選択肢を求めて苦しんでいる」と話す。

 緩和ケアの存在意義は個別対応にある。自分たちにできることを試行錯誤するなかで、ケアの質低下を防ぐ手立てを探すしかない。患者側にも、厳しい状況を生きる覚悟が求められる。

 一方で、田村さんは、コロナ禍のなか、重症患者に対し、延命治療を受けるかどうか、一律に事前の選択を迫りがちな医療界の風潮に警鐘を鳴らしている。

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