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コロナ禍と「面会制限」<下>タブレットの画面越しでは…介護施設の高齢者 「会う」が生きる力支える

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 入居者の生活の場「特別養護老人ホーム」でも、感染の拡大を恐れ、「面会制限」が徹底された。タブレットの画面などを用いた面会も増えたが、高齢者にはハードルが高いなど課題も多い。入居者本位を実現させる方策は見いだせるのか?

「制限も限界」

 面会制限のダメージは、入居者と家族とのふれあいを重視し、地域に開かれた場を目指してきた良心的な施設ほど大きい。

石崎さん(左)は、タブレットの画面を用いて家族と話す人のサポートも欠かさない=岩佐譲撮影

 「あかねサクラ館」(茨城県北茨城市、定員50人)。田園地帯で駅にも近い立地を生かし、「(併設の)保育園児と交流し、近隣の人も気軽に立ち寄れるマチナカカイゴ(街中介護)」をうたう。大半の入居者が認知症。 看取みと りまでできる市内唯一の施設で、面会する家族らは毎月、230人ほどに上った。

 昨年2月、厚生労働省の通達を受けて面会を全面禁止した。当時、市内(人口約4万2000人)で感染者はゼロだった。

 緊急事態宣言解除後の6月、10分間の面会を再開した。予約制。ボードで机を区切った面会室に入れるのは2人。他の家族たちは屋外で窓越しに会う。

 8月、お盆の帰省を見据えて再び禁止した。

 事務長の石崎俊一さん(56)は同月、市内の病院で父を亡くした。面会制限のなかでの看病だった。入居者たちのことを思った。面会が減ったことで、入居者の気力や活力が衰え、認知機能や身体機能が目に見えて落ちたと感じる。本人にも家族にも、もうつらい思いはさせたくない。

 10月、厚労省が面会禁止の条件を緩和すると、8月前のレベルに戻した。だが、今年1月の2回目の宣言後は、また禁止に――。

 2月からタブレットを使う面会を始めたが、利用者は1週間に数人だ。入居者は体をうまく動かせず、カメラ越しに家族と目を合わすことが難しい。「見えてっか!」と呼びかける家族も、満足はしていない。

 「面会は入居者の『生きる力』を支えていた。家族に諦めがあるのか、面会者の数はピーク時の5分の1に減った。制限も限界が近い」と、石崎さんは話す。

 現在でも市内の感染者数は計46人(28日時点)と、県内で特に低い。

認知症悪化

 面会制限やリハビリ・レク活動の時間短縮や中止などが影響し、認知症の悪化や身体機能の衰えが進むことは、石井伸弥・広島大学特任教授(老年医学)の調査でも裏付けられている。

 昨年、全国945の医療・介護施設や介護支援専門員751人から寄せられた回答を分析した。

 認知機能の低下に影響があったと回答した施設の割合は、重度の人の場合で54%、軽度や中等度で47%に上るなど、心身への悪影響がみられた=図参照=。

 認知症の人と家族の会(本部・京都市)の鈴木森夫・代表理事は、「1年半近く家族と会えていない人もいる。面会を生きがいにしてきた人もおり、本人も家族も元気を失っている。会えないまま終わるのではという不安の声も大きい。PCR検査を緩和の要件とするなど柔軟な対応がとれないものか」と言う。

心整える時間

看取り期の面会には家族も“フル装備”でのぞんだ(あかねサクラ館のスタッフによる再現)

 特養の対応の柔軟性に感謝する声もある。

 東京都世田谷区の主婦、高見裕子さん(62)は、昨年12月、都内の特養で長く暮らした父(享年89歳)を看取った。1階ロビーで窓越しに声をかけるなどの方法で面会してきた。

 その父が1か月前に脱水症状になり、緊急入院した。面会禁止のまま容体が悪化し、「積極的な治療をしないのであれば」と、退院を求められた。療養型の病院に転院して、栄養補給などの治療を希望するか。特養に戻るか。家族の意見は、面会を諦めても治療する方向に傾きかけた。

 最終的に特養を選んだのは、面会制限の条件を変えてくれたからだ。手袋、マスク、フェースシールドなどを着用すれば、個室で父にふれることも、泊まり込むこともできる。「自然に衰えた父にとっては、家族に近い場所がよいのでは」との助言もあった。

 亡くなるまでの5日間。父の穏やかさや息づかいを感じつつ、心の準備を整えた。父が好きだった渡哲也さんの歌「くちなしの花」を歌った。孫たちも顔を見せた。会えなかった分を取り返すような、濃密な時間が過ぎた。特養でなければこれほど親身に、本人中心の目線で接してもらえなかったと、高見さんは思う。

 病院であれ施設であれ、問われるのは、患者や入居者本人にとって何が一番大事なのかを考え抜く理念と、それを患者側と共有する意思かもしれない。

 (この連載は、編集委員・鈴木敦秋が担当しました)

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