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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

ペットユニットの職員たち…犬や猫と一緒に過ごせる喜びが何より勝るとの思いも

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ペットユニットの職員たち…犬や猫と一緒に過ごせる喜びが何より勝るとの思いも

「さくらの里山科」で犬の世話をする職員。職員は犬や猫のユニットごとに専属配置される

 これまで、ホームで暮らすペットと入居者のエピソードをお話ししてきましたので、今回はペットに関わる職員たちに焦点を当てたいと思います。

 まず、改めて、「さくらの里山科」の建物の構造を説明します。4階建てで、2階~4階が、入居者が暮らすフロアになっています。さらに、各階は四つのユニット(区画)に分かれています。ユニットは、それぞれ、入居者の居室10室(完全個室制)とリビング、キッチン、3か所のトイレ、風呂と脱衣室で構成された空間で、いわば10LDKのマンションみたいなものです。

 2階に、犬と一緒に暮らせるユニット、猫と一緒に暮らせるユニットが、それぞれ二つずつあります。ここで、犬や猫は自由に暮らしています。犬と猫がいるのは、あくまで2階だけで、3階、4階には入れないことにしています。このため、動物嫌いの入居者も、動物アレルギーがある入居者も、「さくらの里山科」では、特に問題なく暮らすことができています。

 職員はユニットごとに専属配置されます。ですから、職員は、今日は2階、明日は3階などというように、あちこちで勤務するのではなく、毎回同じユニットで勤務します。

 そして、犬ユニット、猫ユニットに配属される職員は、全員犬好き、猫好きです。これは、「さくらの里山科」の人事管理面で、最も重視していることです。犬が好きではない職員が犬ユニットで働くのは絶対に無理があります。また、猫アレルギーがある職員が猫ユニットに配属されてしまったら目も当てられません。

 犬好き、猫好きの職員にとっては犬、猫ユニットは最高の環境だと思います。よく職員が口にするのが、「職場にも犬がいて、家に帰っても犬がいて、一日中犬と一緒なので幸せです」というようなせりふです。多くの職員が、自分でも犬や猫を飼っているので、「いつもペットと一緒」となるのです。

 これまで本コラムにも、「ただでさえ介護の仕事は大変なのに、ペットの世話まで増えたら、さらに大変では」というご心配のコメントが多数寄せられてきました。確かに、業務負担という点では、皆さんが心配される通りです。ペットユニットの職員の業務は、入居者の介護に加えて、ペットの世話まで入りますから、負担はかなり増えます。

 特に犬ユニットは、散歩や、ドッグランへ連れて行くという、時間も労力もとられる業務がありますので大変です。そのため、他のユニットよりもパート職員を1人増やしているのですが、それでは追いつかないくらい、業務の負担は増えています。

 しかし、ペットユニットの職員から特に不満の声は上がっていませんし、ペットがいないユニットへの異動希望は出たことがありません。、反対に他のユニットの犬好き、猫好きの職員が、ペットユニットの空きが出たら異動したいと希望することはあります。ペット好きの職員にとっては、業務の負担量が増える苦労よりも、職場でペットと一緒に過ごせる喜びの方が勝っているのだと思います。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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1件 のコメント

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うらやましい…!

みるく

いつもアップを楽しみにしています。私は還暦を過ぎたところ、ペットとの生活を諦めた高齢初心者です。こちらのコラムを読むと、生き物の温かい肌触り、息...

いつもアップを楽しみにしています。私は還暦を過ぎたところ、ペットとの生活を諦めた高齢初心者です。こちらのコラムを読むと、生き物の温かい肌触り、息遣いなどが自然とよみがえってきます。いつも懐かしがりながら読んでいます。読むたびに「いいな~」とため息ついていますが、今回は、入居さんはもちろん、スタッフさんもうらやましい限りの内容ですね。猛暑の盛り、「わんにゃん」たちのお世話をする職員さんのご苦労もひとしおだと思います。どうぞご自愛ください。

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