山中龍宏「子どもを守る」
医療・健康・介護のコラム
トイレのおむつ交換台から転落 4か月の赤ちゃんが頭がい骨骨折…事故多発の原因は本当に「不注意」なの?
ベルトは「転落を防止するものではありません」って?
10年、消費者庁から「おむつ交換台に子どもをのせたまま、子どもから離れたり、目を離さないようにしましょう」と注意喚起されていますが、保護者はおむつ交換台のすぐわきにいる場合がほとんどで、事例2のように、目を離さなくても見ている目の前で転落します。
「おむつ交換台に子どもをのせる際は、事前におむつやおしり拭きなど必要なものを準備し、片づけやごみ捨てなどは、子どもをおむつ交換台から降ろしてから行うようにしましょう」という指摘もありますが、想定どおりに手順が進むとは限りません。「これまで寝返りしなかった子どもが、おむつ交換台の上で初めて寝返りして転落する」「おむつ交換台に寝かせていた赤ちゃんが急に手に持っていたものを落とし、保護者がそれを拾うために目を離し、かがんで取ろうとしているすきに子どもが転落する」「おむつを外したら、おしっこをし始め、保護者が慌てておむつを当てて押さえ、周りに飛び散ったおしっこを拭くためにタオルを探して目を離してしまい、そのすきに子どもが転落する」など、いろいろな状況が起こります。
製品には「ベルトは横ずれ防止のためであり、お子さまの転落を防止するものではありません」といった警告表示がされていますが、なぜ横ずれを防止する必要があるのか理由がよくわかりません。この文章そのものがずれていて、転落を予防することができない製品であることの言いわけ、責任逃れにしか聞こえません。こうした注意喚起では転落を予防することはできません。
「私の不注意で子どもが転落した」のか?
赤ちゃんの発達について、保護者の方は「次に何ができるようになるのか」まで気が回らないと思います。そこで、生まれて初めて寝返りをして、おむつ交換台から転落してしまうのです。「私の不注意で子どもが転落した」と考えてしまうと、その情報は企業や行政の人に伝わらず、予防にはつながりません。すぐに思いつくのは、
- 保護者の使い勝手を検討しながら、おむつ交換台の高さはなるべく低く設計する
- おむつや着替えをすぐに取り出せるよう、おむつ交換台の上部に棚をつける
- おむつ交換台の3面をついたてで覆い、作業するのは1面だけにする
- 腰ベルトだけでなく、肩にもベルトを掛けるようにする
- ベルトをしないと、うまく使えないような仕掛けをおむつ交換台につける
- おむつ交換台の下を、コンクリートではなく衝撃を吸収する素材に変更する
- おむつ交換台に子どもを立たせている状況を考慮に入れて製品開発する
前出の国民生活センターのアンケートで、「あなたが子どもから離れていた、または目を離していた場合、それはどれくらいの時間だったと思いますか」という問いに対し、「1~3秒程度」「数十秒程度」「1、2分程度」「およそ3分以上」「子どもから離れたり、目を離したりはしていない」「おぼえていない」から一つ選んで回答する項目があります。結果は、1~3秒程度が50%、数十秒程度が31%、子どもから離れたり、目を離したりはしていないが8%でした。
以前のコラム で、子どもが転倒し始めてから着地するまでの時間の平均は0.5秒というデータを示しました。上記のアンケートは、保護者の感覚で判断した数値で、実際に目を離していた時間ではありません。保育所のおむつ交換台での作業を録画して、子どもの行動、とくに突発的な行動パターンを明らかにし、保育者が目を離した時間を実測する必要があります。たぶん、おむつ交換台の上の子どもの動作が始まって1秒以内には転落していると思います。
子どもをのせるために作られた製品から転落が起こり続けているのは、製品の転落予防策が不十分だからです。早急に製品を改善する必要があります。(山中龍宏 緑園こどもクリニック院長)
2 / 2
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。