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ココロブルーに効く話 小山文彦

医療・健康・介護のコラム

【Track15】「発達障害」を疑われてきた22歳女性の困惑。その真相とは?

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再び職場に向かう気持ち

 初診から2週間後、私の診察室に再来したエリカさんには明らかな変化が起こっていました。もちろん、まだ自信満々とまではいきませんが、私の顔をちらちら見て、時々視線を合わせながら、「そろそろ仕事に行ってみます」と意思表明してくれたのです。社交恐怖という大きな不安を抱えながらも、再び緊張の場である職場へ向かおうとするエリカさんの気持ちに、私は敬意を覚えました。

 その後も診察のたびに、私は彼女の「闘病と仕事の両立」という大仕事をたたえました。エリカさんは、薬剤を服用しながら仕事を続け、依然として顧客対応などの対人業務には苦手意識が続いたようでしたが、やがて、店舗の広報にも関わりはじめるなど、働く女性としてのキャリアを重ねていきました。

 生まれつきの特性である「発達障害」と、場面次第で不安が高じてしまう「社交恐怖」とでは、治療のアプローチがまったく異なります。自分自身や周囲の判断だけで何らかの診断(病名)を決めつけてしまうと、暗いトンネルの先にあるはずの光を見つけられずに、長くそこで漂流してしまうことになりかねません。

※「社交不安(社会不安)障害」または、「社交恐怖」

 人に注目される場面や、それによって自身が恥ずかしい思いをすることが怖くなり、不安が高まってしまう病態です。そのため、人と対面して話すことや外出を避けるようになると、社会活動に大きな支障が生じるため、治療を要します。今回のエリカさんの場合もそうでしたが、SSRIなどの薬剤と認知行動療法的アプローチ(例:怖いから避ける→怖いながらも向かう、等への変容)が有効とされています。

 ~ Plusココロブルーへのサプリ ?この一曲 ~ 

“O Grande Amor” MORELENBAUM2 – SAKAMOTO

O Grande Amor MORELENBAUM2 - SAKAMOTO  先月に続いて、この時期のじめじめした気候から解放されるような素敵なボサノバサウンドを紹介します。今回は、MORELENBAUM/SAKAMOTOというユニットの「CASA」(2001年作品)。ボサノバの創始者アントニオ・カルロス・ジョビンと一緒に演奏していたモレレンバウム夫妻と坂本龍一氏が、ジョビンが愛用したスタジオとピアノを使って演奏し、彼にささげた作品です。特に、「O Grande Amor」は、雄々しく深みのあるチェロと、淀みなく流れるピアノを背景に、アンニュイな女声ボーカルが美しく映えます。浮遊感すら感じさせるその歌声が、このユニット全体の安定感に守られ、しっくりと落ち着いて耳に届きます。個人的には、なんとなく不安な心境にある人が、自分自身を支えてくれる人や環境に囲まれることで、安定を得ていく様子を思い浮かべます。このアルバムでは、どの曲からも浜辺や湖畔、はたまた森の中や避暑地の休日という、ちょっとぜいたくなイメージを味わうことができます。

“O Grande Amor” MORELENBAUM2 – SAKAMOTO
https://www.youtube.com/watch?v=Mm1JYN-mcUc

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koyama-fumihiko_prof

小山 文彦(こやま・ふみひこ)

 東邦大学医療センター産業精神保健職場復帰支援センター長・教授。広島県出身。1991年、徳島大医学部卒。岡山大病院、独立行政法人労働者健康安全機構などを経て、2016年から現職。著書に「ココロブルーと脳ブルー 知っておきたい科学としてのメンタルヘルス」「精神科医の話の聴き方10のセオリー」などがある。19年にはシンガーソング・ライターとしてアルバム「Young At Heart!」を発表した。

 2021年5月には、新型コロナの時代に伝えたいメッセージを込めた 「リンゴの赤」 をリリースした。

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