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ココロブルーに効く話 小山文彦

 「ブルーな気分」が悪化すると、脳に問題が起こることも。自分の気持ちを元通りの「鮮やかなカラー」に戻すため、東邦大学医療センターの教授の小山文彦さんが処方箋を届けます。「ココロブルーへの音楽サプリ」として、「おすすめの一曲」もご紹介します。

医療・健康・介護のコラム

【Track15】「発達障害」を疑われてきた22歳女性の困惑。その真相とは?

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彼女は発達障害ではない

 初診時、診察室に入ると、エリカさんは深々と頭を下げて丁寧にあいさつをしてくれました。ところが、その直後から、まっすぐに私の顔を見ることはありません。誰かと視線を合わせることができない様子、つまり強い対人緊張が伝わってきました。そこで私は、互いの視線の向きが90度(直角)に交わされるような位置関係を作りました。

 エリカさんは、ゆっくり話し始めました。

 「入職以来、同僚や先輩たちとのコミュニケーションがうまく取れない。何か話しかけられるだけで緊張してしまう。いつも、どう答えようか、ヘンに思われるんじゃないかと思って、ドキドキしてしまう」

 私が「それは、どうしてだと思うの?」と尋ねると、涙ぐみながら「自分は、周りの人に比べて、何事も劣っていると思うから」と、しっかりうなずきながら懸命に答えようとしてくれました。

 ここまでのエリカさんの様子と言葉、話しぶりからは、人と向き合うこと、すなわち社交関係への過度の緊張と恐怖感が伝わってきました。職場での人間関係をうまく結べないのは、「社交への恐怖」が主な原因で、自閉性スペクトラム症の患者さんに多く見られる「他者理解や共感の欠如」(協調性の乏しさ)とは異質なものでした。ADHDの特性に関する簡易自己チェックを記入してもらった結果、やはりエリカさんには、その傾向はほとんど見当たりませんでした。

自分から社会活動を避けてしまうと

【Track15】「発達障害」を疑われてきた22歳女性の困惑。その真相とは?

 エリカさん個人の面接後に、ナツコさんにも意見を聞きました。

 彼女の話では、エリカさんは、学生の頃から大勢の人が集まる会が苦手で、年齢とともにその傾向がだんだん強まってきたとのことでした。学校卒業前には、数人の会食さえも避けるようになっていたそうです。

 私のエリカさんの現状に対する診断は、ほぼ「社交不安障害」(または、社交恐怖)に固まってきました。社交、対人恐怖の度合いについての検査(LSAS-J)の結果からも、その傾向の強さが明らかでした。

 対人関係などでの過度な恐怖感や不安は、「脳内の神経伝達を担う物質セロトニンのバランスが崩れている状況と考えられている」とエリカさんに丁寧に説明してみました。その上で、抗うつ剤として広く使われている「SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)」の一種、「エスシタロプラム」による薬剤治療を開始しました。

 併せて、恐怖感と不安があるからといって、自分からあらゆる社会活動を避けてしまうことは、その場限りの安心感は得られても、「社交恐怖」を定着させてしまい、かえって状況の悪化を招くこともゆっくりと説明しました。そのため、薬剤の効果が出るまでの2週間は休業し、その後は、可能な限り職場には出向くことを勧めました。私の言うことを、エリカさんはしっかりと理解してくれました。

 エリカさんの状況と治療の方針については、彼女の同意のもと、職場の産業医宛てに書面で伝え、職場側の理解を得られるようにお願いしました。数日後、産業医の先生からは、ご理解いただけた旨の返信をいただきました。

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小山 文彦(こやま・ふみひこ)

 東邦大学医療センター産業精神保健職場復帰支援センター長・教授。広島県出身。1991年、徳島大医学部卒。岡山大病院、独立行政法人労働者健康安全機構などを経て、2016年から現職。著書に「ココロブルーと脳ブルー 知っておきたい科学としてのメンタルヘルス」「精神科医の話の聴き方10のセオリー」などがある。19年にはシンガーソング・ライターとしてアルバム「Young At Heart!」を発表した。

 2021年5月には、新型コロナの時代に伝えたいメッセージを込めた 新曲「リンゴの赤」 をリリースした。

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