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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

強いまぶしさを感じる羞明患者に「散瞳薬」は危険かも…散瞳検査の眼科的常識は見直すべき

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強いまぶしさを感じる羞明患者に「散瞳薬」は危険かも…散瞳検査の眼科的常識は見直すべき

 瞳が大きくなる(「 散瞳(さんどう) 」)と、まぶしくなる(「 羞明(しゅうめい) 」)――。この命題は一応正しいと言えます。

 「散瞳」(瞳孔散大)は、暗い状態で生じるほか、明暗に関係なく 驚愕(きょうがく)疼痛(とうつう) など交感神経が優位になると起こります。しかし、この程度の散瞳で「まぶしい」と感じることはまずありません。

 これに対し、点眼薬で散瞳した場合、大半の人が羞明とぼやけを感じます。

 前者は瞳孔に光の入る量が多くなるからであり、後者は散瞳薬によって毛様体筋も緩むので、近くにピントが合わせづらくなるためです。検査用の散瞳薬の作用は通常5~6時間前後継続しますが、必ずしも作用時間中ずっと強いまぶしさを感じているわけではなく、多くの方は1、2時間以内に慣れてしまいます。

 さて、瞳孔緊張症(神経が侵されて瞳孔のまひが起きるアディー緊張性瞳孔)などで片方の瞳が開いたままになる病気があります。「まぶしい」「ぼやける」「疲れる」という訴えで受診しますが、やがて慣れるので、治療や対処が必要になることは少ないようです。

 また、「濃いサングラスをかけると、散瞳して紫外線が入る」という俗説もよく聞きますが、専門家の実験と研究によれば、通常に市販されているサングラスをかけても、個人差や生活の違いを超えるほどの散瞳は生じないとされています。

 以上のことから、薬や明るさによって瞳が大きくなっただけでは、生活に支障が出るほどの病的な羞明が続く事態は起こりにくいのです。

 ところが、「眼科で散瞳検査をしてから、まぶしさが治らない、むしろ段々ひどくなる」と訴える患者が私の外来に来ることが時々あります。先日も、検査を受けたある眼科で「まぶしさがひどくなった」と再診したら、「もう散瞳はしていないのにおかしい」と医師から言われ、またも散瞳検査をされた。このため羞明が増強して気分が極端に悪くなり、2か月たった今も治らない、という38歳の女性が私の外来を受診しました。一体どうしたのでしょう。

 この方は元来、片頭痛があり、光過敏の傾向がありました。パソコン作業が一時的に多忙となったころからまぶしさを感じることが強くなり、かつ視界一面に無数の細かな光が見えるようになったというのです。以前、コラムで取り上げた( 「心療眼科医・若倉雅登のひとりごと」2018年2月8日 )「小雪症候群」です。羞明の原因は眼球にではなく、大脳の誤作動で生じているためと考えられます。この状態に、さらに散瞳検査で過度な光が入力したため、誤作動が増強して回復しにくくなったもの。つまり「 感作(かんさ) 」と称される反応が増したものと思われます。

 見えにくさや、まぶしさといった問題で眼科を受診すると、水晶体から奥の 硝子体(しょうしたい) や網膜に構造変化が生じていないかを確認するのが任務だと眼科医は教育されていますから、散瞳検査をする習慣がついています。

 強い羞明を訴えて眼科を受診した方については、「基本的にすべての眼科患者に散瞳検査をすべし」という眼科的常識を見直し、慎重に扱わないと、思わぬ悪化や回復困難例が出てきてしまうかもしれません。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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