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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

視覚障害認定基準の日本国内事情は…鶴岡三恵子医師に聞く

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視覚障害認定基準の日本国内事情は…鶴岡三恵子医師に聞く

鶴岡三恵子医師

 前回、国際的視機能障害の基準とされる「機能的視覚スコア」(Functional Vision Score)(FVS)について解説し、日本ではこの方式をまだ取り入れていないことを述べました。しかし、機能的視覚スコアについては、日本国内でも研究しているグループがあります。FVS研究会会長の鶴岡三惠子医師に日本の事情などをうかがいました。

  若倉  日本の視覚障害認定基準は、国際的にみても厳しく、生活の不自由さが必ずしも反映されていないという意見がありますが……。

  鶴岡  生活の不自由さという点では、世界5大医学雑誌の一つ「ザ・ランセット」の関連雑誌で、新型コロナウイルス感染のパンデミック下で、世界の人口の約15%を占める各種の障害者が、健康面、社会面などあらゆる場面で健常者よりも一層マイナスの影響を受けていることが指摘されています。今の日本の視覚障害認定基準は視力、視野を別々に評価する古典的な手法で、実生活における不自由さとの対比検討は、最近までほとんどなされていませんでした。

  若倉  機能的視覚スコアは視力、視野を統合した形でスコア(点数)化したわけですが、実生活の不自由さとの対比がきちんと行われているということですか。

  鶴岡  はい。この方式が提唱された当初から、スコアと、日常動作や生活の質に関する状況との比較研究で高い整合性があることがわかったのです。それが、国際的に認められた最大の理由だと思います。なお、日本での追試でも同じ結果が出ています。

  若倉  では、なぜ日本では導入できないのでしょう。

  鶴岡  歴史的に、視覚以外の身体障害者の認定基準との同等性が担保されてきたことになっているので、視覚だけを見直し、国際基準を取り入れるのは、この点から容易ではないのかもしれません。さらに、従来の基準に慣れてきた眼科医にとっては、機能的視覚スコアはとっつきにくいということもあるでしょう。私たち研究会は、医師にとって機能的視覚スコアがもっと身近に感じられるような戦略を考えていかなければいけないと思っています。

  若倉  2017年に視覚障害認定基準改正に伴う厚生労働省からの報告書がありますが、機能的視覚スコアについてはどういう位置づけですか。

  鶴岡  約6年間の議論の末に出された報告ですが、機能的視覚スコアは合理的であるという評価の一方、一気に変更することは難しいので、変更できるところから行い、理想形としては次の機会に導入できたらよい、との記載でした。今後の進展に期待しています。

  若倉  先生は「お茶の水・井上眼科クリニック」(東京都千代田区)で「ロービジョン(低視力)外来」を担当しています。ロービジョンのケアに関心を持ったきっかけは、何かありますか。

  鶴岡  視覚障害で仕事を続けられなくなったある患者さんに、「あなたは視覚の障害者手帳基準に該当しない」と言わなければならなかったことです。患者さんや職場への適切な助言もできず、結局は自主退職になってしまいました。当時はまだ機能的視覚スコアの存在すら知らなかったのですが、それにあてはめれば中等度障害にあたる方でした。この苦い経験をきっかけに、医師と患者、両者の視点をもって眼科診療をしなければならないと考えるようになりました。

  若倉  どうもありがとうございました。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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