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医療・健康・介護のコラム
「本当に死にたい人はいない」…700人超の自殺を思いとどまらせた77歳男性
東尋坊で自殺予防の声かけを続けるNPO法人代表…茂幸雄さん(77)
福井県の東尋坊で自殺防止の活動をしています。NPO法人のメンバー12人が、水曜日を除く毎日、午前11時頃から日没まで岩場をパトロールし、悩みを抱えていそうな人を見かけると声をかけます。
2004年に活動を始めてから、自殺を思いとどまらせた人は700人を超えました。「死にたくない」「助けてほしい」。そんな声を聞き続けてきた今では、この活動は人命救助の活動なのだという思いを強くしています。
警察官としての最後の1年間、管内に東尋坊がある三国署(現・坂井西署)の副署長を務めました。
自殺の多い場所だとは聞いていましたが、1年で20人から30人ほどが亡くなっていた事実にショックを受けました。少しでも自殺を減らそうと、早朝と勤務終了後に見回りを始めました。
03年9月3日の午後6時頃、見回りをしていると、東京から来たという男女2人に会いました。警察で保護し、自殺を思いとどまらせて地元の役所に引き継ぎました。
しかし数日後、新潟県で2人が自殺したという連絡を受け、私宛てに遺書が届きました。役所では少ない交通費を渡されただけ。そのお金で次の役所まで行き、また交通費を渡されてと、3日間野宿を続けて移動したことが書かれていました。
助けることができなかった――。その自責の念から、NPO法人をつくることにしました。定年後に再就職する道もあり、妻からも反対されましたが、自分しかやる人はいないという思いで、活動を始めました。
東尋坊で自殺する人は、今では1年で10人前後となりました。しかし、コロナ禍で全国的に自殺者数が増えています。5月には3人の女性を保護しました。
自殺が増えることを懸念して、昨年7月からは電話やメールでの相談を受け付け始めました。「仕事がなくなり、退職に追い込まれた」「友達とうまく関われない」といった相談が、毎月30件ほど寄せられています。
大切なのは、その人の悩みの原因を取り除かないと、問題は解決しないということ。悩みが残ったままだと、再び自殺を考えてしまいます。そのため、悩みを打ち明けてくれた人の家や会社に行って、問題を解決したこともあります。
「自殺防止」というとハードルが高そうですが、ちょっと声をかけるだけで元気になります。どのように声をかけたらいいのか、養成講座のようなものを開いて伝えていきたいですね。
本当に死にたい人はいません。みんな声をかけてほしいと願っています。岩場で待っている人がいるという思いで、これからも見回りを続けていきます。(聞き手・本田克樹)
しげ・ゆきお 1944年、福井市生まれ。2004年に福井県警を退職後、NPO法人「心に響く文集・編集局」を設立。今年3月には、自殺を思いとどまった人たちの声かけ前の様子を収めた「『蘇』よみがえる 写真集」を発行した。
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本当に死にたい人はいない、と決めつけるのはどうかと思いますが、そう感じられるほどに、ちょっとしたことで自殺行為に踏み切ってしまう人が多いのも実際...
本当に死にたい人はいない、と決めつけるのはどうかと思いますが、そう感じられるほどに、ちょっとしたことで自殺行為に踏み切ってしまう人が多いのも実際なのではないでしょうか。社会が出来上がると、魂の牢獄のような状態に感じられる人が出てくるのも事実ではないかと思います。昨今のニュースが伝える通り、経済格差や情報格差の進行に伴い、社会の歪みが大きくなっているように思います。そんな社会でみんなが幸福なはずもなく、自殺したいという気持ちの発生が止められるはずもありません。一方で、その中で、本当に自殺したい人はとりあえずおいておいて、一過性に生じた自殺したいという感情や、自殺したいという言葉や態度を借りて表に現れてきたその個人の悩みに目を向けるのは良い試みだとは思います。僕も定職に就かず、好きに新聞投稿なんかしてうらやましいなどと言われますが、守るものがない人生が本当にうらやましいなら、真似すればいいのにと思います。ないものねだりはお互い様ですが。
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