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知的障害者の性被害、証言の揺れ防ぐため「聞き取り1回」で立件…精神的負担を緩和

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 知的障害などを持つ人らが被害に遭った性犯罪の捜査で、被害状況の聞き取りを原則1人の捜査官が担う「代表者聴取」が近く大阪地検で行われる。今春導入された取り組みで、これまでは警察官や検察官が代わる代わる聴取することで証言が変わってしまい、事件化できないこともあった。性暴力被害を埋もれさせない試みに注目が集まる。

 

■つらい経験

 

知的障害者の性被害、証言の揺れ防ぐため「聞き取り1回」で立件…精神的負担を緩和

 大阪地検は大阪府警などと連携して準備を進めている。対象は知的障害や精神障害を持つ性犯罪の被害者で、地検幹部は「障害の特性や程度は人によって様々。どんな方法が適切なのか慎重に検討している」と語る。

 代表者聴取は「司法面接」とも呼ばれる。被害者への一般的な聴取は警察官や検察官が順番に行うのに対し、代表者聴取は原則、1人の検察官が1回で終える。

 つらい経験を何度も話すことによる精神的負担の緩和が狙いだ。これまでも個別の実施例はあったが、法務省は今年度から大阪など全国13地検で試行を始めた。

■嫌疑不十分で不起訴

 

 もう一つの目的が、証言の信用性を高める効果だ。法務省の調査では、検察庁が2018年度に嫌疑不十分で不起訴とした548件の性犯罪のうち、61件(60人)は障害者が被害者だった。不起訴理由は、証言が「客観証拠と整合しない」(17人)が最多で、「うそや記憶違いの疑い」(11人)、「証言に看過しがたい変遷あり」(10人)と続いた。

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代表者聴取が行われる大阪地検(大阪市福島区で)

 代表者聴取に詳しいNPO法人理事長で医師の山田不二子さんは「(障害者は)同じ質問を繰り返されると、前回の答えは『信用してもらえなかったのか』『期待と違っていたのか』などと考え、聞き手の意向に即した答えに変えてしまうことがある」と明かす。

 性被害に遭った障害者の代理人経験がある杉浦ひとみ弁護士も「性犯罪は目撃者がいない密室で起きることが多く、被害を受けたのが障害者の場合、物証が特に堅固でないと検察は起訴に慎重だ」と難しさを語る。

■録音・録画し証拠に

 

 過去の個別実施の中には、代表者聴取での被害証言のほうが、裁判官の前で行った法廷証言よりも信用できるとされた事件もある。

 軽度の知的障害がある長女(当時12歳)への 強姦ごうかん 罪(現・強制性交罪)などに問われた父親の裁判で、1審・静岡地裁は19年3月、被害の頻度や日時について、証人尋問での長女の証言に変遷があったとして信用性を否定し、同罪を無罪とした。

 これに対し、昨年12月の東京高裁は、長女の障害の特性を踏まえ、「直ちに変遷と捉えるのは不合理。1審裁判官の尋問の仕方も不適切だった」とし、証拠採用した代表者聴取の信用性を認めて有罪を言い渡した。

 代表者聴取の様子は原則、録音・録画される。法廷で証言が変遷した場合、証拠としての採用を裁判所に求める考えだ。

 脇中洋・大谷大教授(発達心理学)は「課題は証言の信用性を高めることだ。聞き手が予断を持たず、中立性を意識しなければならない。例えば『何をされたの?』ではなく『何があったの?』と聞けば客観性は高まる。誘導にならない技能が必要だ」と指摘する。

 障害者団体「DPI女性障害者ネットワーク」(東京)代表の藤原久美子さんは「埋もれている被害はまだまだ多い。代表者聴取の導入で事件化が進んでほしい」と期待している。

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