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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

臨床試験を勧められています。参加した方がよいのでしょうか?

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 がんの患者さんが治療の説明を受けるとき、「臨床試験」や「治験」の話が出てくることがあります。「人体実験なんか受けたくない」と言う患者さんもいれば、「とにかく新しい治療を受けたいので、臨床試験に参加したい」と言う患者さんもいます。臨床試験だからよいとかダメとか決めつけるのではなく、提案された臨床試験の内容をきちんと理解して、冷静に判断することが重要です。今回は、臨床試験を受けるかどうかを判断するポイントを説明します。

臨床試験を勧められています。参加した方がよいのでしょうか?

イラスト:さかいゆは

新しい治療の有効性と安全性を評価

 臨床試験とは、患者さんの同意のもと、治療などの医療行為を、研究計画書で決められた方法で行い、その有効性や安全性などを評価する研究のことです。すでに承認されている治療を用いることもありますが、まだ承認されていない治療を試みる臨床試験もあり、後者は、「治験」と呼ばれます。

 臨床試験には、第1相試験から第3相試験まであります。第1相試験では10~20人程度に治療を行い、安全性を評価し、適切な薬の量を決めます。第2相試験では、ある程度対象を絞って、30~100人程度に治療を行い、効果や安全性を評価します。第3相試験では、100~1000人程度の患者さんのご協力を得て、新しい治療と現在の標準治療を比較し、新しい治療が有効であるかを検証します。

 新しい薬の候補があるとき、試験管実験や動物実験の後、ヒトを対象とする臨床試験を第1相試験から行っていきますが、すべてが第3相試験に進むわけではなく、第1相試験や第2相試験の段階で開発が中止となるものもたくさんあります。第3相試験に進んだとしても、有効性を示せなければ、薬として承認されないまま消えていきます。

 今話題の新型コロナウイルスワクチンは、薬の候補が作られてから、臨床試験が行われ、有効性が示され、世界各国で承認され、世界中の人々に投与されるようになるまで約1年という異例のスピードで開発されましたが、通常の薬の場合には、薬の候補が作られてから新薬として世の中に出回るまでに、7~10年程度かかるのが一般的です。

参加する人にもプラスに感じられるべき

 現在、国の承認を受け、標準治療として確立している治療はすべて、臨床試験で有効性と安全性が確認されたものです。今その治療を受けられるのは、過去に臨床試験に協力してくださった、世界中の数多くの患者さんのおかげ、ということになります。これまでの医療は、臨床試験を行うことで進歩してきたわけですが、これからも、よりよい医療をつくるために臨床試験を続けていく必要があります。

 臨床試験は、未来のよりよい医療のために不可欠なわけですが、臨床試験に参加することは、「未来の患者さんのため」というだけでなく、参加する方ご自身にとってもプラスに感じられるものであるべきです。もし、臨床試験に参加することで不利益を受けることが明らかであれば、そのような臨床試験を行うことは許されず、倫理審査委員会で却下されます。臨床試験の説明を受けた際には、それが倫理審査委員会で承認されていることを確認するとともに、担当医に「自分が同じ立場だったらその臨床試験に参加するか」を聞いてみるといいかもしれません。私自身は、「自分が同じ立場だったら当然参加するだろう」と思える臨床試験でなければ、それを患者さんに勧めることはできません。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大付属病院で研修後、2000年より東京共済病院呼吸器科医員、02年より国立がんセンター中央病院内科レジデントとして経験を積んだ。05年に東京共済病院に戻り、「腫瘍内科」を開設。08年、帝京大学医学部付属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に最年少部長として赴任し、「日本一の腫瘍内科」を目標に掲げた。10年間の虎の門時代は、様々ながんの薬物療法と緩和ケアを行い、幅広く臨床研究に取り組むとともに、多くの若手腫瘍内科医を育成した。20年には、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、かつてのヨミドクターの連載「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~」をまとめた、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある。

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