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リングドクター・富家孝の「死を想え」

医療・健康・介護のコラム

なぜ、医者だけがミスを起こしても免責されるのか?……心臓カテーテル検査のミスで遺族に謝罪、賠償金の衝撃

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裁判官に医療行為の是非を判定する能力はない

 私は、大学生の息子が医療行為の結果、障害者になってしまったこともあり、医療ミスを長年にわたり告発してきました。本にも書きました。息子の場合も、手足のまひで運び込まれた病院で、治療方針を決めるための検査が行われました。脳血管障害を疑うということで、造影剤を使った脳血管検査が行われ、その検査で脳梗塞を起こしてしまったのです。私は、この検査が不適切だったとして訴訟を起こしたのですが、刑事事件としては受理されず、民事訴訟では請求棄却になりました。

 このことで私が痛感したのは、日本の裁判官に、医療行為の是非を判定する能力がまったくないことです。そのため、ほとんどの医療ミス裁判では、医者側が敗訴することはないということです。そうした事例が続いたせいか、かつては頻繁に報道されていた医療ミスは、最近はほとんど報道されなくなりました。

医療ミスによる死亡は年間7万~8万件!?

 ただし、報道量が減ったからといって医療ミスが減ったわけではありません。私は日本で年間で7万~8万人、毎日平均200人強の人が医者に殺されている可能性があると思っています。

 この数字の根拠は、2016年に、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究チームが、全米で年間に少なくとも25万人が医療ミスで死亡していると発表したことにあります。米国でこの数なら、人口が約3分の1の日本では7万~8万人になります。日米の医療レベルが同じと仮定してですが。

 残念ながら、日本では医療ミスによる死亡者の正確な統計がありません。日本医療機能評価機構が公表している医療事故は、ここ数年、4000件ぐらいで、このうち死亡事例は300件ほどです。しかし、そんなことを信じている関係者は1人もいません。

 これまでの新型コロナウイルスによる死亡者の合計は1万3673人(6月8日現在)です。また、昨年1年間の交通事故死者数は2839人(警察庁発表)です。そう考えると、アメリカの数字に基づく推計とはいえ、7万~8万人というのは驚くべき数字です。

下手な医者に当たるかどうか運次第

 現在、医療過誤の民事訴訟は年間800件ほど行われています。刑事訴訟はわずかです。そして、民事では8割がた患者側が敗訴しています。

 私が長年にわたって訴えてきたのは、なぜ医者だけがミスを犯しても責任を問われないのかということです。世の中で事故が起こるのは仕方ないとしても、交通事故などほかの事故とは違って、なぜ、医者だけが責任追及を免れるのでしょうか。

 近年、大きな問題になった群馬大学付属病院の医療過誤事件では、肝臓がんのような難易度の高い手術を、未熟な医師が 腹腔(ふっくう) 鏡で行っていました。つまりこれは医療過誤事件というより、人体を実験台にして自分の腕を試した“犯罪”でした。交通事故にたとえるなら、ペーパードライバーによって引き起こされた死亡事故ですから、「業務上過失致死罪」に当たります。

 残念なことですが、医者も人間ですから、腕がいい医者、悪い医者がいます。とくに外科医はそうで、手術が下手な医者は必ずいます。患者さんにとって、そういう医者にたたまた当たってしまったら、それは運が悪いとしか言いようがありません。失われた命は、けっして戻ってはきません。(富家孝 医師)

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富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

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